2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520255
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森本 浩一 Tohoku University, 大学院・文学研究科, 教授 (20182264)
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Keywords | 物語 / ジャンル / メディア |
Research Abstract |
本研究は「研究の目的」に示したように, 「物語」という現象の成立機序を, その受容の認知的構造から解明すること, その際メディアの差異がジャンルの問題とどう関連するかを明らかにすることを目指している。本年度は研究の最終年度であり, 「研究実施計画」で触れた「比較ジャンル論を通じた物語認知の本質論的解明」の総括に注力した。その具体的成果は論文「物語認知の比較ジャンル論的考察」にまとられている。 一定の記号断片が物語つまりひとまとまりの出来事連鎖として理解されるとき, そこには必ず「物語世界」の表象が随伴する。これは現実的な対象認識において「世界」という契機が不可欠であるのと同じである。現象学によれば, この「世界」性は, 私が他者の視点へと「自己移入」することによって可能となる。これをヒントとして, 本研究では, 記号断片を受け手が物語として受容する事態を, 「物語的他者への自己移入」としてモデル化した。受け手は, 物語的他者が呈示する一貫性のある「ふるまい」を知覚することで物語的他者を発見し, その視点へと自己同化するのである。このモデルの下で, 「語り手」「視覚フレーム」「人物」「筋」などの分析カテゴリーを物語的他者の「ふるまい」として再解釈し, またこれらが具体的に知覚され分節化される際のメディア的な特性に着目しつつ, 物語ジャンルの「分類」を行うための指標を提案した。 本研究は, ハーマン, ライアンらによる認知主義的な「物語メディア」研究を継承するものだが, 彼らにはない原理的モデルに基づいて物語分析の諸カテゴリーを包括的に位置づけ直した点において, 独自の意義を有する。このモデルから, なぜ「メディア」が物語にとって本質的関連性を有するのかを説明しえたことも重要である。
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