2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520268
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
野村 鮎子 奈良女子大学, 文学部, 教授 (60288660)
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Keywords | 明清詩文 / ドメスティック・バイオレンス / 士大夫 / 非古の文体 / ジェンダー / 女性虐待 |
Research Abstract |
18年度は、明清の士大夫が非古の文体で描き出したドメスティック・バイオレンスの問題に絞って、関連する資料の調査と論文の執筆を行った。 女性への虐待やドメスティック・バイオレンスが、男性の社会的地位や学歴・職業に関係なく起こり得るものであることは今日では周知の事実である。しかし、これまでの研究では、士大夫の家は「父子・兄弟・夫婦相い和順す」といった儒教の訓えが体現されたものであるという建前から、士大夫層のドメスティック・バイオレンスが明るみに出ることはほとんどなかった。文学研究でも、夫や舅姑による嫁への暴力の描写は小説の世界のことであり、士大夫の正統文学である詩文にはドメスティック・バイオレンスを描いた作品はないと考えられてきた。 本研究の研究代表者である野村は、国内の漢籍所蔵機関のみならず、北京国家図書館・上海図書館・台北国家図書館の古籍善本室へ赴き明清詩人の詩文集を広く調査し、その結果、婚家先で非業の死を遂げた娘について父親が哀悼した詩文を数篇発見した。婚家先での虐待の詳細は、女性のための行状といった、明清時代に流行した所謂「非古」の文体で描かれている。また、いずれの作品にも共通するのは、娘を喪ったことの父親としての哀しみと、娘を虐待して死に至らしめた婚家への怨念、そしてこのような家に嫁がせたのは、ほかでもない父親の自分であり、娘を救えなかったという自責の念の吐露である。 こうした文学の背景には、前近代の中国の女性は「孝」や「從一而終」といった規範のため、一旦嫁げば舅姑や夫からの虐待があっても離縁はほとんど不可能であったこと、特に士大夫階級の教養ある家庭の女性ほどその抑圧が強いというジェンダーの問題が絡むことを明らかにした。
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