2006 Fiscal Year Annual Research Report
会話フランス語コーパスによる談話構築・理解に関する意味論的研究
Project/Area Number |
18520308
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東郷 雄二 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 教授 (10135486)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大木 充 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 教授 (60129947)
|
Keywords | 会話コーパス / 談話 / 意味 / 状況 |
Research Abstract |
平成18年度は研究課題のうちの理論的考察に関係する指示・照応理論の主なものを調査し分析を行なった。われわれは談話の構築・理解の手がかりとなる、名詞句・代名詞などの指示表現による談話内への談話指示子(discourse referent)の導入と同定の手順に注目している。談話指示子という考え方を採らず、名詞句を一貫して変数として記述する形式意味論においては、動的意味論(dynamic semantics)が特に文脈情報を取り込む方法を提案しているが、文脈情報は論理式の一部に代入するやり方を採用しており、名詞句は変数として扱われることには変わりない。この方式だと談話の進行とともに、取り込む文脈情報が膨大なものになるという欠点がある。聞き手は談話理解において、ずっと前に遡る文脈情報までもそのたびに計算しているかは大いに疑問である。また、談話表示理論(Discourse Representation Theory)でも名詞句は一貫して変数として記述され同じ欠点を共有している。また両者とも名詞句が意味解釈される限定された状況という概念を持たず、これでは談話の動的な展開に沿った変化する談話理解を適切に捉えることができないことが、会話フランス語コーパスの分析を通じて改めて明らかになった。 本年度の研究から明らかになったのは、i)名詞句は変数としてではなく、心的表示に登録される談話指示子として記述すべきである ii)動的意味論のように文脈情報を次の式に取り込む方式ではなく、心的表示に累積的に蓄積する方式が有望である iii)名詞句の意味解釈は、それが解釈される限定された状況に依存し、それは状況意味論(Situation Semantics)が提案した資源状況(resource situation)に相当すると考えられる、などの諸点である。今後は「状況」における指示対象の存在様態を解明し、それと照応過程との関係を考察する必要があることも明らかになった。
|