2006 Fiscal Year Annual Research Report
中古中世の古文書語彙の研究-状態・概念を表す名詞を主として-
Project/Area Number |
18520368
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
辛島 美絵 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (60233996)
|
Keywords | 仮名文書 / 古文書 / けしき / 気色 / 景色 / 平安時代 / 語彙 / 名詞 |
Research Abstract |
交付申請書では、 1)古文書における事物の様子を表す名詞語彙の用例採取、 2)その用法の整理、 3)他の資料における用法との比較 を計画したので、18年度は、状態・概念を表す名詞のうち、とくに「けしき」という語に焦点を当てて、この1)2)3)を実行した。 その結果、古文書では、使用例が漢字書きの下達文書に偏ること、仮名文書にはほとんど使用例がないことが明らかになった。そこで、ただちに3)の研究に入り、平安時代の古記録類、日本漢詩・日本漢文類、訓点資料、史書・律令、辞書類、文学資料を調査して「けしき」約600例を採取し、用法の整理を行った。結果、古文書と共通する「けしき」という語の10世紀以前の用法上の特色 1、個別的な人や事物について用いられる 2、外界に常に在るのではなく、捉えられ受取られて存在する 3、重点は、眼前に具体的に実在するものではなく、目に見えない心の状態、眼前にない過去や未来の出来事、あるいは故意に隠された動作・状態の表現にある 4、「見る」「見ゆ」が承ける例が多いとはいえ、視力のみで見るのではなく、嗅覚や皮膚感覚なども含めて捉えられる を明らかにし、従来の当該語の理解とは異なる知見を得ることができた。これを、同時進行の「学術フロンティア人間-環境系の媒体としての景観プロセスに関する学際的研究」との成果とあわせて、「『けしき』をめぐって(二)-古代の『気色』の特色-」「古代の『けしき』-平安時代前期までの<気色>の特色-」という2本の論文で論じた(後者の論文は19年度に公開予定)。 19年度以降は、「けしき」が古文書のような実用資料においてのみ呈する特色を明らかにし、そのような偏りが生じる理由を考察することによって、古文書の日本語史料としての性格を追究する予定である。
|