2006 Fiscal Year Annual Research Report
言語進化理論からみた英語史における「統語的埋め込み構文」の創発の意味について
Project/Area Number |
18520392
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
大澤 ふよう 東海大学, 文学部, 教授 (10194127)
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Keywords | 統語構造 / 創発 / 生成文法 / 埋め込み / 機能範疇 / 古英語 |
Research Abstract |
本研究は「統語構造」は何故変化していくのかについて、生成理論の枠組みで明らかにしようとするものである。具体的には英語の歴史のなかで「統語的埋め込み構文」が創発してきたことを証明しようとする。 一年目は、理論的な基礎固めを行い仮説の構築をめざした。最初は、従来から言われている主節に別の節が入っている構造を主な対象としてのみ考えていたが、研究を進めるうちに、節以外の構造にも目を向けなければ、この創発というメカニズムが言語にもつ意味が捉えられないのではないかと考え始めた。すなわち、節以外の構造、名詞句にも同じような「埋め込み」が起こっていること、しかもこれが同じく史的に出現したことがいえるということが分かった。現代英語の名詞句は、DP仮説によれば名詞Nの投射ではなく、機能範疇Dの投射であるが、このDは現代英語には存在するが古英語には存在しない。古英語の名詞句はNPである。つまりDは時間の経過とともに、英語に創発してきたことになる。このDの創発により、可能になった構造にthe king of England's hatのような群属格がある。これもDPの中に別のDPが埋め込まれている構造である。すなわち上位のDPのSpecの位置にもう1つのDPが入っているのが群属格である。この群属格は古英語には存在しておらず、分離属格が用いられていた。群属格が中英語期になって可能になったのは、中世期にDが英語に創発し、その結果可能となった構造であると考えれば、無理なく説明できる。 またこの立場は名詞句構造と節構造の並行性が生成文法で言われていることと一致する。名詞句も節と同様な構造を持ち、同じような移動がありV-to-I-to CとN-to-D、属格は主語に相当すると言われている。これも、Dの創発の結果であると考えられるのではないか。 このように、社会的要因もこの創発には否定できないが、やはり言語に内在する要因があると考えている。
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