2006 Fiscal Year Annual Research Report
北海道釧路・白糠地区におけるアイヌ語再生に向けた取組の現地調査
Project/Area Number |
18520446
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
寺迫 正廣 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (70150381)
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Keywords | アイヌ語 / アイヌ文化 / コラボレーション / マイノリティ言語 / 松本成美 / 釧路アイヌ文化懇話会 / 釧路アイヌ語の会 |
Research Abstract |
現在、北海道ではアイヌ語再生の試みが各地で行われている。母語話者が残した録音テープをローマ字あるいはカタカナに書き起こし、それを日本語にする作業、それらをもとにアイヌ語辞書を編纂する活動、そして各地の生活館を拠点とするアイヌ語教室開催などがその中心である。そうした活動のなかで私が注目しているのは道東の釧路・白糠地区の活動である。道東は萱野茂氏の二風谷地区(H18年5月逝去)、知理幸恵の旭川地区などとともに活動の盛んな地域であり、その中心にいるのが釧路アイヌ文化懇話会および釧路アイヌ語の会会長、松本成美氏である。氏は高知県出身のシサム(非アイヌ日本人)であるが、白糠中学校教諭時代に貫塩喜蔵氏と知り合い、貫塩氏が書き留められていた「サコロペ」(叙事詩)の日本語訳の作成を手伝われたことがきっかけで、以来40年間一貫してアイヌ文化とアイヌ語の研究および、出版活動に心血を注いでおられる。この間、同じ釧路地区の山本多助氏の「アイヌモシリ」の発見と公刊、日本語訳の出版など数々の重要な仕事を行ってこられた。2005年度はかつて「責任吉良」として、修身の教科書にも載った逓送人吉良平治郎の事蹟を研究するため、吉良平治郎研究会を立ち上げ、アイヌ民族としての平治郎の行為と壮絶な死の原因を徹底的に調査され、かれの行動が決して滅私奉公に尽きるものではなく、逓送人としての任務を全うするとともに、最後の瞬間まで生き抜こうとしたことを突き止められた(その成果は冊子「アイヌ逓送人吉良平治郎」にまとめられている)。そしてこの研究の成果は脚本化され、昨年から今年の初めにかけて、市民劇として釧路および札幌で合計5回上演され、いずれも満員札止めとなる大成功をおさめた。これも松本氏の強いリーダーシップのもとに実現したものである。釧路・白糠地区の活発なアイヌ文化・アイヌ語研究はこのように松本氏の存在なしには考えられないと言っても過言ではない。私はフランス文化論の研究を通してアルザス地方など、フランスの各地の少数言語教育政策を見てきて、アイヌ語のように母語話者がほとんど存在しなくなった言語の再生をどうするか、どう運動をつくっていくかを見守っているが、アイヌ民族だけの努力では難しいところもあり、どうしても「シサム」と呼ばれる非アイヌ日本人のコラボレーションが必要であると理解した。本研究ではしたがって、松本成美氏に焦点を絞り、氏の40年間の活動を浮き彫りにすることとした。昨夏とこの冬の2回釧路を訪れ、松本さんに密着してその活動を追うとともに、氏の業績を整理している。また9月の東京での貫塩喜蔵後援会にも参加した。未だ研究と作業の途中なので、論文化するところまでは至っていないが、平成19年度には論文にまとめたいと思っている。
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Research Products
(4 results)