2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520501
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
今野 日出晴 愛媛大学, 教育学部, 教授 (10380213)
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Keywords | 日本史 / 歴史叙述 / 歴史教科書 / 原爆体験 / 被爆者 / 聞き取り / オーラル・ヒストリー |
Research Abstract |
本研究は、「原爆体験」を基軸に据えて、歴史叙述の新たな可能性を開こうとするものである。そのために、まず、広島・長崎の被爆者はもとより、韓国在住の在外被爆者を含めた「原爆体験」を実際に聞き取り、それをもとに、その後の生活史にも留意しながら、歴史叙述を試みる。それは、数に還元されてしまうような統計的な方法としてではなく,一人一人の固有な経験から被爆者の戦後史を描こうとするものである。そこで、今年度は、まず、被爆者の声を記録する会、被爆教師、ジャーナリストなどから聞き取りの実施と資料の収集をおこなった。そこでは、自らが被爆体験を語るだけではなく、それを後生に残す(音声として、童話として、教育として、報道として)ことの意味と意義が、戦後の生活史のなかから浮かび上がってきた。在外被爆者(もしくは、在日韓国・朝鮮人被爆者)への聞き取りも、そうした点に留意しながら、引き続き追求していきたい。また、固有な体験を歴史叙述に反映させるための理論的・方法的な側面に関しては、まず、昭和史論争を検討するなかで、人間を描くことの意味とその方法について言及した(「大門正克編『昭和史論争を問う-歴史を叙述することの可能性-』によせて」『年報日本現代史』第12号)。さらに、歴史叙述を歴史研究と歴史教育の交差する領域に位置づけることで、理論的な整理をおこない、歴史研究者だけが歴史叙述を占有するようなものではなく、「人間の尊厳を確かめようとする学問」すべてが歴史像形成の課題を負っていることを提示した。その成果は、平成19年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の内定をうけ、『歴史学と歴史教育の構図』(東京大学出版会、2007年)として出版予定である。こうした到達点を踏まえて、次年度以降は、「原爆体験」についての具体的な歴史叙述を追求したい。
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