2006 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本における武士像と道徳性と政治意識の相関性に関する史料復元的基礎研究
Project/Area Number |
18520505
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 九州大学, 大学院比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
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Keywords | 地誌 / 風土記 / 合戦故事 / 戦死譚 / 地域開発故事 |
Research Abstract |
本年度はまず九州をはじめ西日本を中心に地誌・風土記類を調査し、そのなかで武士がどのようイメージで描かれているか、またその背景に関し検討した。網羅的調査にはいたってないので素描にとどまるが、いくつか指摘できる。まず合戦故事・武士の戦死課などの検証をこれらの書籍類が意図していることである。近世は戦乱がない時代で治者としての武士像が強まった可能性(2007「江戸時代の武士のイメージ」。今年度の発表研究成果。以下同じ)があろうが、他方で合戦ないしそこで戦死した武士の姿が描かれるのは怨霊観念とともに武士が持つ武力・暴力への畏敬意識が潜在し、それが結果的に武士の暴力行動(無礼討ちなど)がなくならず(2006「書評と紹介・谷口眞子著『近世社会と法規範』」)、むしろ社会秩序や武士身分秩序を安定させる役割を果たしていたことにつながると思われる。社会差別が政策的に展開される(2007「近世大名の農政展開と社会差別」)のも、暴力性を背景にした武威の秩序維持志向との評価もできよう。しかし、武士自身に治世の実現が求められているのも事実であり、地誌・風土記類にはとくに地域開発故事に因む武士も多く登場する。領民にとっての安定した生活実現を可能にする武士の姿が描かれる点が留意される。そして武士自身も自己の家や統治対象としての領域の歴史像を自らの規範意識・道徳性を加味しながら描くようになる(2007「佐賀県近世史料第八編第三巻」)。これに止まらず、治者としての武士は領民に対しても自らの社会的立場を自覚しその役割を果たすことを促す道徳性を求めることになろう(2006「『藩』研究のビジョンをめぐって」)。本来、戦闘者である武士に自覚されるようになった治世をめぐる武士自身の道徳意識が領民にどのように共有されるのかが、今後間題になる。その意味でも領民による武士顕彰史料の発掘を継続する。
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