2007 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本にける武士像と道徳性と政治意識の相関性に関する史料復元的基礎研究
Project/Area Number |
18520505
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 Kyushu University, 大学院・比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
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Keywords | 武士 / 道徳 / 教諭 |
Research Abstract |
九州を中心に西日本を範囲として、史料収集した。前年からの継続で網羅的収集ではないが研究主題に関し、いくつかの実績知見を得た。 第一に中間身分(村役人)層が子孫に残した家職にともなう覚書類には、武士身分の権威性に依拠したよいうよりも、自らの家のいわば社会的使命として村役などに従事する自意識がみられ、武士身分による治世を家職として担う社会観が強い事例を多く指摘できる。子孫への覚書類という史料的性格を考慮すれば、積極的な武士・治者の政治支配を支える道徳認識が想定できよう。そして彼等(村役人)の政治・道徳意識が近世前期の段階で武士・治者顕彰という事象を生むことになる(2007「対馬藩田代領の扶持人と村役・町役」。今年度の研究発表・雑誌論文。以下同じ)。 第二に、政治支配に関わる中間身分といっても、村役人層とともに役所支配を実質的に担う階層も形成される。彼等は第一で指摘のように、それぞれ自らの家意識を持ちながら、政治支配に関わるが、その立場は異なることになる。前者はあくまで地域社会の構成員という性格を持ち続けるが、後者は漸次、世襲化して士身分という性格を帯びるようになり、小作者、経済的没落者などへの対応なども背景に、微妙に対立する。ここに藩側はこれら相互に社会的利害対立を生じ兼ねない諸階層への教諭が要請される(2007「社会変容と訴願・改革・教諭」)。 第三にかかる時代性のなかで武士認識が変容しうる契機が想定されることである。とくに諸藩の改革にともないみられる藩主顕彰の政治的意味合い、また領民の武士・治者意識に与えた影響は看過できないと思われる(2007「近世大名家〈祖神〉考-祖先信仰の政治化-」)。
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