2008 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本における武士像と道徳性と政治意識の相関性に関する史料復元的研究
Project/Area Number |
18520505
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 Kyushu University, 大学院・比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
|
Keywords | 権威 / 武の認識 / 神国観 / アイデンティティ / 家 / 宗教 |
Research Abstract |
(1)武士の権威に対する民衆の認識の解析を行い、そこにいわば被誘因性が指摘できる。一つは武力への畏敬が神国観と結びつき、武士の神格化を受容する動向である。とくに武功家臣の選別は、神格化という動向もともないながら、絵馬などを通じて広く民衆世界に浸透してゆく(2009「員原益軒の『武』認識とその行方」。今年度の研究発表。以下同じ)。今ひとつは士分化・役人化が地域社会におけるステータスとなる身分上昇の傾向は、武士の権威性に対する民衆層の意識を反映している。それは行政組織への参画による政治的権益の向上という側面もあろうが、士分権威が民衆層による地域でのステータス獲得、という問題も孕む(2009『近世領主支配と地域社会』)。 (2)以上からすれば、民衆の武士像、政治意識は、自らが属する集団のなかの武士の位置づけ、という枠組みで捉えられる。いわばアイデンティティの問題である。家訓は民衆が持つアイデンティティのいわば単位世界のものであり、そこに士分や政治参加が家相続との関係でどのように認識されて吟るかが問題である。また、かかる自己認識は神国観、そのなかで武士像、家職意識にも連動する(2008「近世の『宗教』も政治・社会を読み解くカギ」。なお拙稿2008「『世界』と『神国』」『境界とアイデンティティ』〔岩田書院〕所収も参照)。東照宮勧請は、武家社会の頂点にあり王権という性格も持った東照権現が民衆世界で民俗神として受容される回路を創出するが(2008「武士神格化と東照宮勧請」)、これもアイデンティティの問題と捉えられよう。 (3)さらに武士層が行政役に関わり自らの家との関係で上昇志向を持つことも、彼らの政治意識を考慮する際に重要であり、これは武士道徳や民衆の士分化意識の問題とも関係する(2009「近世大名家臣の役勤と人事」)。
|