2009 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本における武士像と道徳性と政治意識の相関性に関する史料復元的基礎研究
Project/Area Number |
18520505
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 Kyushu University, 比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
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Keywords | 身分秩序 / 道徳 / 報恩 / 社会観 |
Research Abstract |
本研究は、本来は戦闘者でありなだら、近世に治者としての性格を強めた武士層とその支配対象としての非武士層の間に共有される道徳性や政治意識について武士像との関係も留意しながら、それらの相関性について検討することを目的としている。その際、従来は思想史や民俗学、領主制(藩政史)に関する研究のなかで個別的に検討されてきた諸史料を総合的に検討することを方法論的特徴と想定した。本年はこの研究の最終年度であるが、これまで集積したデータをもとに、史料編年の作業を通して基礎的フレームを提示した。 一つは身分秩序と道徳をめぐる問題で、武家領主の教諭の基本思想(儒学や家職意識など)とともに、近世初期の段階から幕末期にかけて、とくに外様の広島藩と譜代の小浜藩を主軸としつつ、西日本を中心に編年的に整理した。その結果、善悪の価値観を内在した領主側の認識、「百姓」独自のものとしての生活規制の規定化、領主の「国恩」という価値観の提示、民衆層の道徳性に経済格差の原因を求める姿勢、などが教諭政策とともに段階的に形成され、武家領主は身分秩序の構築を、分限と忠孝を基軸に道徳性を内在させ行おうとしたことが解析された。これに対する民衆側の対応、社会観について、家訓や農書・意見書などにみられる地域認識の基本思想(家意識や武士像)という観点から、やはり史科データを編年的に整理した。その結果、近世が戦闘者である武士による生業・家職を安心して営める時代の到来であるという認識の形成、富裕層や村役人などにより武家領主支配を前提に「公儀の民」として「家」相続が可能という観念の形成、道徳実践と「家」相続が武家領主への報恩観と結びつく回路があり、それが武力・武威への認識に連なる可能性があること、しかし、道徳性や武威を介した武士と民衆諸階層との関係はより複雑であること、などの結論を得て、報告書史料集を編集した。
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