2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520525
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Research Institution | Kwassui Women's College |
Principal Investigator |
細井 浩志 活水女子大学, 文学部, 教授 (30263990)
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Keywords | 遅刻 / 時刻 / 陰陽道 / 宇宙構造輪 / 須弥山説 / 渾天説 / 月食 |
Research Abstract |
摂関期に関して次のことが判明した。(1)高位貴族は政務・儀式への遅刻が常態化しており、それを踏まえて遅刻の作法が存在した。これは時刻に拘束されないことが、その尊貴性と関わっていたからである。(2)一般官人も遅刻が常態化しているが、高位貴族より厳しく対処される傾向がある。(3)遅刻常態化の背景には、一般的には時刻の表示装置が共有されていないこと、呪詛が横行するなかで貴族は自己の物忌を優先したこと、貴族の不摂生な生活態度より来る不健康さ、道路等のインフラの未整備、またそれが貴族社会全体にルーズな政務・儀式運営を許容する雰囲気をもたらしていた点があったこと。以上である。このうち最も重要なのは、時刻の表示装置が共有されなかったことである。天皇は計時装置としての漏刻の所有者でもあり、時間による労働管理を通じて臣下に対して権威をもち、これによって「来るべき時刻に遅刻」したという概念が成立した。ただし、時間が共有されない状況下での時間管理の強化は、遅刻の頻発をもたらしたのである。しかし一方で、陰陽師の日時勘文等によって、儀式の時刻を厳重に管理しようとする建前が、陰陽道成立との関係で9世紀後半から強調されるようになった。また遅刻への厳しい態度は、指導力のある政治家において顕著であり、一方で下級官人など、立場の弱い者に対して向けられやすいことも明らかとなった。この他、中世日本の宇宙構造論として、蓋天説と仏教の須弥山説とが一体となり、古代以上に社会に浸透した様相も明らかにした。また須弥山説支持の僧侶と渾天説支持の暦道の対立の焦点が、月の運動(盈虚と月食)にあり、二種類の宇宙構造論が対立していた結果-ヨーロッパの自然学・技術が伝来する大航海時代以前の日本人は科学的関心が弱く、宇宙構造に興味がなかったとする通説に反して-中世以前の日本でも宇宙構造論に関する関心が高かったことが判明したのである。
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Research Products
(6 results)