2006 Fiscal Year Annual Research Report
京都における伝統工芸の成立と発展、近現代窯業の考古学的研究
Project/Area Number |
18520594
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
木立 雅朗 立命館大学, 文学部, 教授 (40278487)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 聡 立命館大学, 文学部, 講師 (10368011)
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Keywords | 京焼 / 伝統工芸 / 近現代 / 戦争 / 民俗考古学 |
Research Abstract |
京都における伝統工芸を検討するために、本年度は次の4つの調査を行った。(1)京都市五条坂・道仙化学製陶所窯跡の発掘調査、(2)京都市五条坂・藤平陶芸所有文書の調査、(3)滋賀県甲賀市信楽町・旧国富産業有限会社の民俗考古学的調査、(4)埼玉県川越市・浅野カーリット工場跡の民俗考古学的研究。 道仙化学製陶所の窯跡は昭和37年廃窯の現代窯跡であるが、五条坂という京焼の伝統的産地で、現在も周囲では京焼の生産が行われており、近現代考古学・民俗考古学にとって絶好のフィールドである。発掘調査の結果、6室の連房式登り窯を検出し、多量の化学陶器や窯道具・窯体片が出土した。京都では近代化とともに化学陶器も焼成されるようになり、伝統的な京焼と化学陶器が共存・共栄していたが、産業の高度化と大規模化によって瀬戸をはじめとする他産地に押され、昭和30年代後半に道仙化学製陶所と松風工業が相次いで廃業する。京都の近代化とともに始まった化学陶器の生産が、高度経済成長に伴う産業の高度化・大規模化によって淘汰されたのである。その具体的なありさまを考古学的に検討するきわめてよい材料であり、今後、瀬戸との対比を含めた民俗考古学的調査によって日本の近代化と高度経済成長による変化を明らかにできるだろう。ある意味で「やきもの」が「窯業」として展開する過程を示していると思われる。 藤平陶芸は戦時中、会社統制法によって統制された経験をもち、それに関する書類を保存している。陶器製手榴弾や陶器製二宮金次郎像、ロケット燃料の精製装置なども所有しており、当時の史資料が豊富に残されている。この資料をデジタル化して整理した。聞き取り調査、史料調査、考古資料調査が総合的に行える貴重な例として注目される。 滋賀県甲賀市信楽町の旧・国富産業有限会社跡では戦時中、陶器製地雷や手榴弾の弾体を製造していた。現在でも会社に勤務されていた方が健在であり、当時の聞き取り調査が可能であった。聞き取り調査によって信楽における会社統制や軍需工場の状況が明らかになった。また、終戦直後に陶器製地雷を埋めたという場所から多量の陶器製地雷弾体を採集した。人為的に破砕されていることが明確な資料であり、廃棄の状況も伺えた。 埼玉県川越市浅野カーリット工場跡は、戦時中に陶器製手榴弾に火薬を詰めて完成させた場所であり、全国各地の窯業産地から陶器製弾体が納入されていた。それが終戦直後に割って捨てるように命令され、ビン沼川の大量に廃棄されている。これらの弾体を検討することにより、全国のどの産地から納入されたかが明らかになるが、現在のところ、有田・信楽(・瀬戸)が確認される他、産地不明の弾体が多数存在する。採集した破片や寄贈を受けた製品を検討し、各地の伝統工芸である窯業が戦争と如何に関わっていたのかを検討する貴重な材料になると想定される。
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