2008 Fiscal Year Annual Research Report
GPSテレメトリーによる農業被害多発地域におけるイノシシの生態解明
Project/Area Number |
18520614
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
高橋 春成 Nara University, 文学部, 教授 (70144798)
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Keywords | 環境適応 / 人と生き物の共存 / 人間環境システム |
Research Abstract |
今年度は本研究の最終年度であり、これまでのGPSテレメトリー結果を整理する。以下、GPSを装着した主なイノシシの捕獲時期、捕獲場所、性別、装着期間中の行動特性などを示す。平成18年度は、5月中旬にオスの成獣を大津市栗原地区の放置竹林で捕獲した。このイノシシは、7月中旬にGPSが脱落するまで、放置竹林、耕作放棄地、田畑の残滓地などを選択的に利用した。また9月上旬には、同地区の耕作放棄地でオスの成獣を捕獲した。このイノシシは、翌年の1月に京都府の旧美山町で捕獲された。イネ(キヌヒカリ)の収穫が終了するまで耕作地周辺に居ついていたが、それ以降はアベマキーコナラ群集などの堅果が得られる山林部に移動した。'ある期間の居つき'と'移動'を繰り返し、移動距離は直線で50kmにもなったが、'居つき'や'移動'の場所や経路は山間の比較的開けた所や山麓部などにあった。平成19年度は、同地区で7月初旬に出産間もない6頭の子を持ったメスを捕獲した。このイノシシは何らかの原因で短期間でGPSからの音信が不通になったが、捕獲場所が放置竹林や耕作放棄地周辺の林地であったことから、出産を迎えるイノシシがこのような生息環境で子を出産し、子育てをしていることが伺われた。平成20年度も、7月下旬に放置竹林で出産間もない7頭の子を持ったメスを捕獲したが、このイノシシもまたGPSからの音信が普通になった。しかし、前年同様の出産と子育て期のイノシシの環境利用が伺われた。イノシシは4月から7月頃が出産期で、一年を過ぎるとオスの子は母親のもとを離れ独立していくとされる。今回のGPSを活用した調査は、近年の放置竹林、耕作放棄地、田畑の残滓の拡大がイノシシ社会に餌場、出産場、移動経路などを提供していることを伺わせる。イネを中心とするイノシシの農業被害は、そのような中で増大しているとみなされる。
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