2008 Fiscal Year Annual Research Report
現代インド在地社会の民主化における価値と倫理の文化政治学
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18520624
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田辺 明生 Kyoto University, 人文科学研究所, 准教授 (30262215)
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Keywords | 文化人類学 / 民主主義 / 政治学 / インド / カースト |
Research Abstract |
現代インド・オリッサにおける在地社会の変容は、ヒエラルヒーと権力の中心性という植民地下において強化されたヘゲモニー構造を乗り越え、サバルタン的供犠倫理と民主主義とを接合した「ヴァナキュラー・デモクラシー」の成立の可能性を示唆している。ここでいうヴァナキュラーとは、実践と言説に関わる文化資源のうち、上から与えられた公式のものではなく、地域の生活世界において歴史的に蓄積され、実践倫理的に人々に身体化されたものを指している。 ヴァナキュラー・デモクラシーとは、地域の生活世界に根ざした固有の実践と言説の様式と、民主主義の制度と精神とを、相互影響のうちに実践的に架橋した(あるいは架橋することを目指す)政治と社会の姿を示すものである。それは、近代国家の原理(権利・合理性)と現地社会の文化倫理(徳・供犠的奉仕)の対立という植民地的二分法を架橋する可能性でもあり、インド社会のポスト・ポスト植民地期への移行を示唆するものであると解釈できる。これは現在のポストコロニアリズムの枠組みを超えるための視座を提供することとなる。 また当地のヴァナキュラーな民主化において、多一論に基づく存在の平等という供犠思想が重要な役割を果たしたことが注目される。インドの供犠思想には、世界における多なる差異を認めつつ、それらを貫く一なる普遍性の中に存在論的平等性を見出そうとする多一論の哲学がある。こうした多一論を現代社会で生かすことに、お互いの違いを認め合いつつ相互の存在へ尊重と配慮をするヴァナキュラー・デモクラシーの可能性がみられる。
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Research Products
(5 results)