2007 Fiscal Year Annual Research Report
イスラーム世界における法学派の伝播と定着一地域社会の法と宗教
Project/Area Number |
18530001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳橋 博之 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 准教接 (70220192)
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Keywords | イスラーム / 法 / 法学派 / 偉業伝 |
Research Abstract |
今年度は,雑誌論文1編およびそれに準ずる事典項目を一つ発表した。雑誌論文「アブー・ハニーファ讃を思想研究資料として考察するための基礎的考察」においては,正統法学派の一つハナフィー派の学祖アブー・ハニーファをめぐる伝承がどのような人物によって発信され,伝達されていったのかを,統計的な手法を用いて推測した。その結果として,同派が,敵対する伝承家の名前を借りてアブー・ハニーファを讃える伝承を創作・発信した割合をある程度正確に確定することができた。この作業は,法学派が学祖を神格化していく過程を追跡するための基礎的な作業であり,法学派の伝播と定着という現象を解明するための第一歩となるものである。イスラーム研究において国際的に権威の高いEncyclopaedia of Islamに寄稿した"Abu Hanifa"ではその成果を盛り込んで初期ハナフィー派学説の形成について新しい視点を提示することができた。 他方,実定法研究に目を転ずると,2008年3月末から3月初めにかけてイスタンブルのスレイマニェ図書館において,9世紀から10世紀にかけて編纂され,後にはハナフィー派の最も基本的な実定法の著作となった『基本書』のほぼ最古の写本を調査・招来することができた。本書は,学祖の学説に,後世の法学者の学説が識別の困難な形で接ぎ木された体裁をとっているが,これを精査して,各学説の層を選りわける作業に着手した。この作業は,同派の学説の展開を追跡する準備的な考察としての意義を有する。
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