Research Abstract |
平成19年度は,平成18年度に行った労働保護規制の弾力化に関する研究を継続し,比較法的な観点からの分析を加味した。本研究は,労働保護法規制の弾力化における労働者代表の関与のあり方という観点からこれまで進めてきた研究成果(単著『労働者代表法制に関する研究』(2007年,有斐閣)で公刊済み)をベースにして,さらにこれを発展させ,どのような労働条件規制であれば,弾力化に適するかを検討し,さらに,その枠内で,個別的同意によるデロゲーション(法規制からの逸脱)の理論的可能性を模索するというものである。平成18年度の研究では,この点の中間的な結論は,安全衛生など公序性が高い規制でない限り,少なくとも集団的主体の関与による適用除外は認められてよいというものであった。また同時に進めた個別的同意によるデロゲーションに関する比較法研究(ドイツとイタリア)の結果,これらの国では個別的同意によるデロゲーションに消極的であるということが明らかとなった。 平成19年度は,いわゆるパートタイム労働法の改正,労働契約法の制定など,本研究に関係する重要な法律の制定ないし改正があったため,まずはこれらの法改正のもつ理論的インプリケーションについての研究を中心に行った。特に労働契約法においては,労働者の個別的同意のあり方について新たな規制が設けられており,これについては労働者代表による関与とは異なる形での個別的同意の規制であると評価している。この点も含めた個別的同意をめぐる総合的な分析は,平成20年度にまとめて行う。また,労働者の個別的同意の問題を考える上で基本となる従属性概念をめぐっては,重要な最高裁判例が出されたので(藤沢労基署長事件・最1小判平成19年6月28日),その分析を行った。その分析結果については,平成20年度内に公刊する予定である。比較法研究については,引き続き,個別的同意によるデロゲーションについて分析検討を行い(ドイツ,フランス,イタリア,イギリス),アングロサクソン系と欧州大陸法系では,この問題についてのアプローチが異なることが明らかとなった。
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