2007 Fiscal Year Annual Research Report
法人に対する刑事制裁をめぐる実体法的・手続法的諸問題に関する比較法的理論研究
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18530045
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
岡上 雅美 University of Tsukuba, 大学院・ 人文社会科学研究科, 准教授 (00233304)
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Keywords | 法人処罰 / 経済刑法 / EU刑法 |
Research Abstract |
本研究第2年目の成果としては、比較法的側面で、ドイツ法を対象とした。まず、ハンブルクから研究者を招聘して講演会を開催した。前年度にすでに明らかにしたように、EU法を背景にヨーロッパ大陸法では法人の刑事責任を認める傾向にあるが、ドイツでは依然として法人に対する「刑罰」を否定する見解が優勢であることの理由を検討した。そこでは、ドイツ観念論の立場から、法人に刑事責任を認めるのは、刑法上の「責任概念」との不整合であり、責任を前提とする刑罰は、したがって、法人に科すことはできないと考えるのが、ドイツでの近時の理解である。しかし、EU法では、法人に「刑事制裁」を課すことが要請されており、ドイツの現行法(秩序違反法での対応)は、その要請に反するのか否かが次に問題となる。この点、わが国でこれまで紹介されてきた秩序違反法および法効果としてのGeldbusse(「過料」と訳されてきた)の法的性格は、現在のドイツの学説では異なって理解されていることが明らかとなった。従来の理解のように、秩序違反法は価値中立的な性格ではなく、Geldbusseも行政罰ではなくむしろ刑事的性格をもつものと理解されている。この潮流によれば、秩序違反法・Geldbusseによる対処は、EU法の要請に適合していることになる。結論として、ドイツ型の構成要件論を基礎とし、違法性・責任の概念もドイツ法の影響を受けたわが国では、如何に考えるべきかを考察した。「責任」とは、現在の通説である「法的」責任論がそれを法的非難と考える点は正しいとしても、それが「価値中立的な(ないし価値を含まない)」非難だと考えるのだとすれば、そのようなものは「責任」とはいえない。法人に対する刑事責任を含む「責任」概念が自然人にも共通だとすると、自然人に対する責任が拡散する虞がある。詳細は論文を参照いただきたいが、わが国でも、法人に対する制裁は、自然人の法体系・制裁とは切り離して考えるべきであるとの帰結に達した。
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