Research Abstract |
平成20年度は,現行法上法人処罰が問題となる独占禁止法違反,証券取引法違反等の経済罰則法規違反事件を素材として,これらの事案において,企業の経営陣のほか(あるいは,企業の経営陣を含む個々の組織体構成員ではなく),企業法人それ自体を制裁の対象とすべきかどうかを,企業の意思決定過程モデルの分析を通して検討した。この研究をとおして,法人処罰が可能な犯罪類型についても,企業の役職員を中心とした個々人による「組織ぐるみの犯行」と評価することが可能であり,この点において,法人処罰が認められない犯罪と異なるところはないとの結論を得た。そして,ここでの研究を踏まえ,近時新たに法人処罰の対象犯罪とすべきとの主張が見られるとりわけ会社法違反の利益供与罪について,これが法人処罰の対象となりうるかについて,同罪の保護法益論を踏まえて検討し,その成果として,岡山大学法学会雑誌58巻3号に「利益供与罪(会社法違反)の保護法益と法人処罰の可否」と題する論文を発表した。また,首都大学東京都市政策研究会の紀要「都市政策研究」2009年3号に,企業の意思決定過程を踏まえて企業犯罪に対する制裁のあり方を論じた白石賢氏の著書(『企業犯罪・不祥事の法政策』)の書評を掲載した。 本研究は,企業の組織的意思決定に基づく犯罪について、企業のトップを含め,個人責任を問うことは理論上・実務上,基本的に可能であるとの結論を得た。同時に,刑事帰責論の枠組み(正犯論,共犯論,因果関係論など)が関与者の刑事責任の正当な評価を可能とするかについては,例えば正犯としての責任を問えないことが必ずしも犯罪実態の過小評価を意味するわけではなく,個人責任を問えない場合があるとしても,そのこと自体が処罰の不当な間隙を意味するわけではないとの結論に至った。そして,仮にこれらを個人処罰の限界であるとみるとしても,このこと自体は法人処罰の正当化根拠とはなり得ないという結論を得た。
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