Research Abstract |
本年度は,昨年度に引き続き,最近の「資本主義の多様性論」や「コーポラティズム論」の動向を踏まえ,まず第一に,所得格差に関連すると思われる政治、制度の諸要素について,近年の政策フィードバックや政策普及の議論をも視野に入れつつ,それらを系統的に整序するという観点から「政策レジーム」という準拠枠組を提示し,比較研究を体系的なかたちで行うための分析枠組を提起した。その際,従来のアプローチが,どちらかといえば,賃金設定過程の団体交渉中心的な視点であったのに対し,政策志向をもったアプローチへと視座の転換がある点を強調した。その成果は「政策レジームと所得格差:賃金交渉制度論から政策指向型アプローチへ(上)、(中)」『法政研究』(静岡大学法政学会)のかたちで公刊した。 第二に,私が本研究に関連して提示した説(拙稿「OECD諸国の所得格差と政治-制度との関係について:資本主義の多様性と社会民主主義的コーポラティズム」(『法政研究』2005年),すなわち,所得格差と政治制度配置(労働の組織間関係の集中化)との関係が,負の単線的な関係にあるのではなく,U字型関係にあるという説について,文献調査や統計資料の分析やインタビュー等をおこない,その補強のための調査を遂行した。 第三に,昨年度から引き続いて,OECD諸国の各種の所得格差に関連するデータの収集やそれに深く関わる各種の指標についてのデータを渉猟し,収集整理する作業をおこない,さらに,そうした各種の所得格差の指標と,前述の各種の政治-制度の諸要素との関係について,パネル、データをめぐる種々の計量的な分析技法の適用を試行しながら,その関連性を探究し,いくつかの連関性を索出した。その成果は,随時,次年度において公刊し,来年度の成果報告書のなかに盛り込みたい。 以上が,本年度の本研究の主たる概要である。
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