2007 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀デモクラシー論の持続と変容-大衆社会・市民社会・シティズンシップ
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18530100
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山田 竜作 Nihon University, 国際関係学部, 准教授 (30285580)
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Keywords | デモクラシー / 大衆社会 / 市民社会 / シティズンシップ |
Research Abstract |
2007年度の当初の研究計画には、G. A. AlmondらによるCivic Culture論に対するC. Patemanからの批判の検討、および20世紀末から議論が活発になった「熟議デモクラシー」論の大衆デモクラシー論との接点の検討、という2つの柱があった。しかし健康上の問題があり、実際に研究が行えたのは後者の点のみであった。 「差異の政治」の論者であり、かつ「熟議デモクラシー」をも展開したI. M. Youngのデモクラシー論は、異質な他者との間にいかにコミュニケーションを可能ならしめるかという課題に取り組んでいる。しばしば、今日的なデモクラシー論の2つのモデルである「闘技」モデル(C. Mouffeら)と「熟議」モデルとは両立しないかのような言説があるが、しかしYoungのような議論を検討すれば、(1)アイデンティティは、異質な「他者」の存在を前提にして初めて成立する可変的・多元的なものであること、および(2)「熟議」と言えども単なる合意形成に還元することはできず、むしろ「語る」ことは「闘い」であること、この二つの点で両モデルは接点を持ち得ると言ってよい。 そして、「闘い」としての対話・コミュニケーションにおいて「聞くこと」を重視するYoungは、正義にかなったデモクラシーの条件として「理にかなった態度reasonableness」を挙げるが、これは今日的なシティズンシップ教育において重要なキーワードになり得るのみならず、20世紀中葉の大衆社会論者K. Mannheimが晩年に提唱した「創造的寛容」とも極めて親和的な概念である。いかに「civility」を身につけた市民を輩出するかという課題は、20世紀デモクラシー論の底流に存在し続けてきたと理解することができる。
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