2008 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の東アジア秩序構想の展開と挫折1874-94年
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18530115
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
大澤 博明 Kumamoto University, 法学部, 教授 (70213684)
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Keywords | 日清戦争 / 川上操六 / 伊藤博文 |
Research Abstract |
平成20年度では、日清共同朝鮮内政改革に向けた日本の外交戦術とその限界を主たる検討課題とした。 これに関連する学説上の論点の1つは、1894年6月2日の朝鮮出兵政府決定に関して、参謀本部次長川上操六中将が伊藤博文首相を騙してその了解以上の兵力を朝鮮に派遣することで日清戦争への突破口を開いたと論じることができるかどうかである。 これについては、これまで目清戦争当時の外務次官であった林董の回顧録や徳富蘇峰が著した川上操六の伝記に依拠して、主戦論者川上操六が平和論者伊藤博文を騙したのだと論じてきた。しかし、騙したかあるいは騙されたかどうかを議論する具体的材料はこれまで極めて乏しかったといわざるを得ない。なぜなら、伊藤首相を騙したとされる川上操六参謀次長を中心とする参謀本部の出兵に関する動向を示すような史料に乏しかったからである。 本年度の研究過程で、こうした史料的空白を幾分なりとも埋め出兵過程の再検討を促すに足る史料に接することができた。その史料によって以下のような事柄が改めて検討を要する課題であることが明らかになった。 第1に、朝鮮出兵にかんする政府と軍との協議は、6月2日閣議かそれを承けて行われたように理解されてきたが、それより数日前に重大な協議がなされていたのではないか、ということ。第2に、出兵数に関して川上が伊藤を騙したとされてきた記述をそのまま信用するには慎重であるべきではないか、ということである。 これまで通説的見解が依拠してきた出兵決定過程にかかる基本史料とは別の角度から出兵過程を照射する史料の存在によって新たな理解の道筋を描く補強材料を入手できた。
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