2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18530134
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野 善康 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (70130763)
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Keywords | 失業 / 資産移転 / 流動性のわな / 不況 / 需要不足 / 対外資産 / 流動性選好 / 援助国 |
Research Abstract |
今年度は、好況の国と不況の国との間の資産移転が各国の景気に与える影響について分析した。そのために、Ono(1994,2001)によって開発された流動性選好に基づく動学的不況理論を2国2財の国際経済の枠組みに拡張した後、(1)両国とも好況で失業が存在しない状態、(2)一方が不況で失業が存在し、他方が好況で完全雇用が成立している状態、(3)両国ともで失業が存在する状態、のそれぞれが起こる条件を示した。その結果、大きな対外資産の国ほど購買力を使い切れず、需要不足による失業が発生する可能性の高いことがわかった。 次に、そのような国同士での資産の移転が各国の景気に及ぼす影響を分析した。その結果、(1)完全雇用国からの資産移転は自国の消費を減少させるが、失業国からの移転は自国の雇用を改善して消費を拡大すること、(2)完全雇用国による資産の受け入れは自国の消費を増やすが、失業国が受け入れれば失業が悪化してかえって消費が減る、という結果が得られた。 以上から、失業の国から完全雇用の国への資産移転は、被援助国だけでなく援助国の消費も増やすということがわかった。この性質は、完全雇用しか考えない従来の理論からは導き出されない。しかし、現実には、たとえば第二次世界大戦後に米国がヨーロッパに向けて行った資金援助(マーシャル・プラン)において認められている。当時、ヨーロッパは戦禍によって民生用の生産設備が破壊され需要に比べて生産能力が不足していたのに対し、戦禍を免れた米国では巨大な生産能力を抱える一方で、戦争終結による需要不足によって不況に陥る危険があった。しかし、マーシャル・プランによってヨーロッパに資金援助を行うことにより、ヨーロッパは米国製品を消費することができ、米国は需要を確保して高い雇用水準を確保することができた。本研究は、このような現象が理論的にも説明されることを示したことになる。
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