Research Abstract |
イギリス歴史学派の方法論とJ.S.ミルの方法論との関係について研究を深めた。歴史学派を特徴づけるものの一つは,歴史的方法(historical method)である。彼らは,古典派の演繹法あるいは理論的方法に対して,歴史的方法を対置して登場してきた。しかし,古典派の代表者の一人であるJ.S.ミルは,その『論理学体系』(初版1843年)において,すでに歴史的方法について語っていた。ミルによれば,当時,ヨーロッパ大陸の最も先進的な思想家たちが歴史の経験的法則を探究していた。しかし,歴史の経験的法則を探求するだけでは,歴史的方法を用いることにはならない。この法則がそれの依存する心理学的および性格学的法則と結びつくまでは,科学的法則と呼ぶことはできない。ミルのいう歴史的方法を用いていたのは,大陸の歴史学派の中でも,コントだけであった。 イギリス歴史学派においても,歴史的方法は,歴史の経験的法則を探求するという意味で用いられる場合もあれば,コントーミル的な意味で用いられる場合もあった。さらに,これらの2つの用法を超えて,歴史的方法そのものが進化をとげていったということができる。したがって,厳密な意味でのコントーミル的な歴史的方法は,イギリス歴史学派の一部にのみ継承されたといわなければならない。しかし,古典派の理論的方法を定式化した「直接的演繹法」以外に,歴史的方法をも容認していたミルの方法論は,この点から見ても,包括的なものであったことが分かる。イギリス歴史学派は,その初期には,理論的方法を歴史的方法によって置き換えようとする過激な主張を展開するのであるが,やがて,歴史的方法だけではなく理論的方法の意義も認めるようになる。つまり,再びミルの総合的な立場へと戻ってゆくことが明らかになった。この成果は,平成19年度に論文にまとめる予定である。
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