2007 Fiscal Year Annual Research Report
経済危機の歴史政治経済学:大恐慌期の経済政策と経済学
Project/Area Number |
18530150
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
若田部 昌澄 Waseda University, 政治経済学術院, 教授 (00240440)
|
Keywords | 経済学史 / 経済政策 / 大恐慌 |
Research Abstract |
本年度は、大恐慌期についての歴史的研究を進める一方で、そうした研究を整理するための理論的研究を行った。具体的には、第一に経済政策形成過程における知識の役割を理論的実証的に整理した。ここでは、経済についての普通の人々の見方と専門家の見方が異なる可能性、また政策が人々の抱く知識に依存しその知識が政策の結果に依存することから生じる知識の動学的変化の理論について展望した後に、大恐慌期の自由貿易をめぐる議論を事例としてとりあげた。大恐慌期に起きたことは、自由貿易の退溺と保護貿易の台頭であった。これは経済危機のさなかには、経済学者がほぼ一致して抱いている信念に反対の政策でも実現することを示している。第二に、政治経済学の理解を深めるために立憲主義と経済学との関係について整理を行った。従来立憲主義は法学ないしは政治学との関連で研究されてきた印象が強い。しかし立憲主義政治経済学という分野も存在するし、ルールによって自制するという制度・思想は経済学の基本とも大きく関わる。大恐慌期においてもルールに基づく政策を提唱した経済学者たちがおり、この研究はそうした経済学者たちの思想を理解する準備として位置づけることができる。アメリカの全米経済学史学会で行った学会報告も基本的には政治経済学に対する理論的な関心からアダム・スミスを読み解いたものである。なお一般向けに「失敗に学ぶマクロ経済政策」と題して『経済セミナー』において、2007年4月号から2008年2・3月号まで11回の連載を行った。この中では、大恐慌だけでなく、1970年代の大インフレ、そして1990年代から2000年代初頭にかけての日本の大停滞という経済危機を例にとって、本研究の成果を一部紹介した。
|