Research Abstract |
今年度は,主に,イタリア・トレント大学のボルザガ教授,ベルギー・リエージュ大学のドゥフルニ教授とも直接に交流しながら,就労支援の分野で活動するヨーロッパの社会的企業について学んできた。ヨーロッパの研究者の場合,労働市場政策が「第二労働市場政策」と揶揄される一種の公的就労スキームから,より「積極的」なものへと転換していくプロセス-政府の役割よりも,失業者の個人的責任をより重視する流れ-と結びついて,社会的企業は登場し展開してきたと捉える。韓国で昨年末に制定された社会的企業育成法もまた労働市場政策の「積極化」の中で構想されたものである。ところが,韓国では,もう一方で,生活保護受給者のなかの勤労能力のある者を対象とする自活事業を進める中でも,就労支援の社会的企業が育ってきている。要するに,韓国の経験は,社会的企業の登場・展開が,「労働市場政策の積極化」だけではなく,「福祉から就労へ」という政策上の転換とも結びついている場合もありうることを示唆している。 この二種類の政策上の転換とのかかわりで社会的企業を捉えるという視点は,日本の社会的企業を見ていく場合には,とくに重要になるように思われる。なぜなら,両国の生活保護制度が類似しているからである。 ヨーロッパの社会的企業の場合には,福祉サービスと就労支援が主な活動分野となっているが,われわれの日本の社会的企業の調査は,就労支援の分野に限定して行っていく方針を固めた。被災地(神戸)における就労支援,ホームレスの自立支援,ニートの自立支援,障害者の就労支援,農村部の女性起業,都市部のワーカーズコープを当面の研究対象とすることにした。とはいえ,生活保護受給者の一部も視野に入れていく必要があろう。 また,論点を整理して,「コミュニティー・オーガナイジングと社会的企業」,「社会政策と社会的企業」,「ガバナンスと社会的企業」,「ソーシャル・ファイナンスと社会的企業」,「雇用・労働と社会的企業」などのテーマを立てて各自が分担していく方向性も決めた。
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