Research Abstract |
1.1970年代初頭ないし前半以降,中東などにおいて国際石油企業の原油と油田に対する支配権は,現地の産油国政府による資源と施設の国有化,「事業参加」(原油生産事業の権益の買い取り)などによって,短期間のうちに失われた。本年度は,世界の石油産業界において今日なお最大企業として存在するエクソンモービル社(以下ではエクソン社)を対象として,1970年代の中東地域,特に同社の最大生産拠点サウジ・アラビアでの油田支配権の喪失過程を考察した。 2.本年度の研究によって得られた成果(要点)を2点のみ記す。(1)サウジ・アラビアにおいてエクソン社がリヤド協定(サウジ・アラビア政府が25%の「事業参加」を実現。1972年12月締結)を容認せざるを得なかった主たる要因のひとつは,ヴェネズエラなど他の主要な原油生産拠点における同社の生産余裕能力(spare capacity)の減退であった。(2)他方,エクソン社は,リヤド協定を受けて,残された自社の持分原油に加えて,サウジ政府から出来るだけ多くの原油を買い付けようとした。同社の関連会社アラムコの生産量は,1972年に約570万バレル/日(20億9800万バレル/年)であったが,エクソンはサウジ・アラビア政府の了解を得て1980年には2000万バレル/日までこれを増加させる途を探った。80年の生産規模を72年時点の3,4倍に増加させることで,エクソン社は,サウジ・アラビアを,西ヨーロッパ,アジアのみならず,アメリカ本国市場への有力供給拠点としても位置づけようと意図したのであった。この事実は,エクソン社の中東,のみならず世界戦略を明らかにする上で極めて重要である。 3.なお,本年度は,この研究に先立って,1990年代初頭以降のエクソンモービル社による原油と天然ガスの生産事業について,これまでの研究を継承・発展させて一稿に仕上げ,学部紀要に掲載した。
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