2006 Fiscal Year Annual Research Report
ルール工業地域の形成・発達と環境問題:化学工業を中心に
Project/Area Number |
18530263
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田北 廣道 九州大学, 経済学研究院, 教授 (50117149)
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Keywords | ルール地方 / 工業地域 / 化学工業 / 環境問題 / 住民運動 |
Research Abstract |
初年度は、ルール地方における化学工業に関係した史料・文献の調査・収集を中心に作業を進めた。その際、19-20世紀初頭の環境問題を利害関係者に注目しつつ考察するという本研究の接近方法に沿って、中央政府・地方政府・自治体(立法・行政)、市場のエージェント(企業家・「化学工業連盟」)、市民(環境闘争)の3者の関係と争点が明らかになるように工夫した。そこから得られた成果は、以下の通りである。 (1)ケーススタディの中心に据えた、K.イエガー染料会社について1860年代〜1910頃まで伝来する環境闘争関係の史料(ノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館所蔵)からは、次の2点を読み取れる。 1.まさにイエガー会社の歴史が、化学工業をめぐる認可立法や営業監督官制度と争点の時代的変化を映し出す鏡の役割を担っていること 2.1864-1873年バルメンにおける第一期闘争は、市当局と住民の結束した運動のために経営主力をデュッセルドルフに移動させる結果をもたらし、いわば化学工業の市外追放が頻発した19世紀前半の潮流の、その最後の名残ともいえること(そのことは、デュッセルドルフに舞台を移した1875-77年の第二期闘争と比較するとき、鮮明となる)(2)化学工業の発展につれて深刻度を増してくる環境媒体(水・大気・土壌)汚染の深刻化の中で、1880年代以降「連盟」は専門家(化学者ではユリシュ、法律家ではフォッセンを中心)を動員して、科学技術的知識を背景に反対派の押さえ込みにかかり、世紀転換期ころからの大規模経営の台頭とも併せて強力な地位を確立してくる。 (3)A.Andersenが化学工業会社BASFと都市ルトヴィヒハーフェンの発達との密接な関係から明らかにしたように、近代産業都市の発達と環境問題の関係を考慮する必要性が、バルメンとデュッセルドルフにおける環境闘争の事例からも浮き彫りにされた。 これらの新たな知見を、時代を追って史料分析を通じて論文にまとめていく予定である。
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