Research Abstract |
本研究では,新規株式公開(Initial Public Offerings:IPO)時におけるイノベーション投資と企業価値との関連を検討する。 企業が競争力を上昇させる際,研究開発費(R&D)を通したイノベーション投資の重要性がしばしば認識されてきた。このことは,イノベーションが経済成長への重要な手段であることを示している。 しかしながら,現在の会計原則の下では,イノベーション投資は企業の将来の成長に重要な要素であるにもかかわらず,概して会計資産として貸借対照表に認められない。 資産計上される資産と異なり,費用として取り扱われるR&D投資は,営業利益を減少させ,同時に総資産を過小評価させる。公開価格が会計的利益と簿価にもとづいて決定されているため,研究開発を経費と考えると,結果的に公開価格をより低く計算されることとなる。 したがって,本研究では,IPO企業のイノベーション資産が大きければ,IPOのアンダープライシングの大きさは,より大きくなると仮定する。 本研究では,企業グループをR&Dがない企業グループ,R&D集約度が低いグループそしてR&D集約度が高いグループに分け,R&D集約度が高いグループを,R&D費用と売上高との比率で中央値よりも大きい企業とした。初期収益率とこれらR&D集約率とその他の変数との回帰分析を行う。サンプルには,1997年-2006年のJASDAQ上場企業を用いた。 本研究では以下のことが明らかとなった。 (1)イノベーションの集約度が高い企業ほど,イノベーション投資とアンダープライシングとの相関係数が強くなることを検証した。 (2)初期収益率が,平均値および中央値とも,Low-R&D企業よりもHigh-R&D企業の方が大きく,R&D集約度が高い企業が,アンダープライシングが大きい,ということがいえた。 (3)Low-R&DとHigh-R&Dのグループごとに,R&D集約度とアンダープライシングとの相関係数求めた。しかしながら,R&D集約度が高い企業が,アンダープライシングが大きい,ということがいえなかった。
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