2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18530411
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大久保 孝治 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00194100)
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Keywords | 清水幾太郎 / 大衆社会 / 社交 / 愛国 / 倫理学 / 庶民 |
Research Abstract |
本研究の目的は、清水幾太郎の思索と行動の軌跡を追検証することにあるが、今年度はとくに、学習院大学を退職(1969年)した後、晩年までの時期に焦点を当てて考察を行い、論文「清水幾太郎における『庶民』のゆくえ」としてまとめた。その要旨を以下に記す。 清水は論文「庶民」(1950年)において、「私自身が庶民なのである」という一種の告白を行った。彼がそうした告白を行った理由は、第一に、彼がまさしく庶民の出身であり、そのことに劣等感と矜持の両方を抱いていたからであり、第二に、庶民は彼の社会学理論において重要な位置を占める人間的自然を体現するものであるからであり、第三に、平和運動に積極的にコミットしていた清水が、庶民への共感と庶民との連帯という観点において、自分を他の進歩的文化人と差異化しようとしたからである。しかし、50年代、60年代を通して、戦略としての庶民の概念は有効性を失っていった。庶民はマスメディア(とりわけTV)の発達と高度経済成長の中で新しい群集へと変容していった。他方、清水も平和運動から離脱し、アカデミックな研究に没頭するようになった。彼にとって、新しい群集はもはや共感と連帯の対象ではなく、貴族との対比において批判すべき対象へと転化した。晩年、清水は大衆社会を乗り越えるために、愛国と社交の必要を説くにいたった。
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