2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18530426
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima Kokusai Gakuin University |
Principal Investigator |
澤田 善太郎 広島国際学院大学, 現代社会学部, 教授 (90137232)
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Keywords | 討議民主主義 / ハーバーマス / 公共性 / コンドルセ / 社会的ネットワーク |
Research Abstract |
1 研究計画にもとづき,今日の討議民主主義論に大きな影響をあたえているハーバーマスのコミュニケーション的行為の理論について考察中である。ハーバーマスは,1960年代の実証主義論争を起点に,社会の総体を概念的に把握しようとするフランクフルト学派の目標から,超越論的・形而上学的要素を払拭しようとし,コミュニケーションを通じての相互主観的な真理の確証をめざすようになる。しかし,認知領域のみならず,規範や表出領域での合意を視野に入れたかれのコミュニケーション的行為の理論は,公共的合意が時代や社会の支配的な規範に固着する可能性を持っていないだろうか。とくに資本制社会が即自的にはブルジョワ的意識を支配的にするというハーバーマスの想定を前提にした場合,システムと生活世界との対立についてのよほどダイナミックなモデルを考えなければ,ブルジョワ民主主義と同化した討議民主主義という,ハーバーマスが期待していなかったと思われる論理的帰結をみちびくであろう。また,ハーバーマスが公共的合意の可能性をしめすために援用したウィトゲンシュタインの言語ゲーム論は,リオタール,デリダ,最近ではシャンタル・ムフなど,ハーバーマスに直接に言及し,公共的合意の不可能性を論じる議論の論拠にもなっている。これはたんにウィトゲンシュタイン解釈というより,現代の知の状況をどう把握するかという問題にかかわる重要な対立点であろう。 2 具体的な研究業績としては「民主的決定のモデル」という小論文を発表した。この論文では,コンドルセが真理の探究手段とし,アローが個人の選好の集約手段としてとらえた「投票による決定」の困難が,討議民主主義論の台頭をもたらす過程を論じた。さらに,オープン・アーキテクチャーなど,今日のインターネットによって出現した新たな集合的決定方法について言及し,それらが討議民主主義に対してもつ意味を検討した。インターネットにかぎらず,最近の社会ネットワーク論を視野に入れて,討議民主主義(あるいは公共性)の制度デザイン論を検討することは,これからの研究で重視するつもりの課題である。
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