Research Abstract |
1.目的と方法 本研究では,平成18年度より高齢者の手順教材の学習を支援する標識化様式の効果を検討してきた。平成18-19年度では,最上位構造性を明示するように標識化の視覚的様式を操作することで,高齢者における構造方略の使用を介して,加齢に伴う抑制を緩和できることを調査研究(研究1〜3)で示した。平成20年度では,調査研究を受けて,実験研究(研究4)を実施した。2階層の見出しで示差性を高める視覚的様式が高齢者まで幅広い学習者(小学生,大学生,高齢者)の構造方略の使用を支援するとともに,その所産である手順文の記憶を促すことを検討した。分析の観点は,第1に最上位構造の把握と利用,第2に体制化と記憶の程度,であった。実験課題は「携帯電話を用いた119番電話のかけ方」に関する手順教材であった(見出しの文字サイズと文字種を用いて示差性を操作した)。実験参加者は,高齢者(65歳から74歳),大学生(18歳から23歳),小学(6年生)の各90人であった。参加者は,それぞれ3群に分けられた(示差性無群,示差性低群,示差性高群)。以下では,高齢者の結果を中心に記載する。 2.結果と考察 (1)構造把握と構造利用の分析:まず,構造把握課題の結果について分散分析により検討し,示差性を高めた見出し文字の視覚的様式が構造把握を高めることを示した。次に,構造利用の分析として文配列課題を実施した。修正数の分析から,示差性を高めた視覚的様式では,体制化過程の終盤で修正数が多くなることが示された。 (2)体制化レベルと記憶レベルの分析:まず,体制化連得点の分析から,示差性を高めた視覚的様式で体制化のレベルが高まった。次に,分類得点の分析では体制化連得点と同様の結果を得た。さらに,記憶レベルの分析として再構成課題を実施し,示差性を高めた視覚的様式の効果が認められた一方で,示差性の低い視覚的様式の効果が消失する結果が得られた。最後に,再生数の分析では条件差は得られなかった。 (3)実験のまとめと本研究の成果:示差性を高めた標識化様式を採用すると,高齢者において構造方略の使用に役立つ程度が高まり(標識の有用性),この方略使用を介して,手順教材の学習が支援された。こうした結果は,平成18年度から3年間で行った3つの調査研究と1つの実験研究を通じて一貫して示された。ここから,高齢者までの幅広い学習者に対する標識化効果のメカニズムの一端が明らかになり,教材表現への示唆を得た。こうした成果は学習者中心デザインと呼ばれる教授学習モデルの構築に寄与するものと考えられた。
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