Research Abstract |
本年度は,偶発記憶に及ぼす記銘語から喚起されるエピソード情報と人物情報がもつ情動に対する処理の効果を,記銘情報から喚起されるエピソードの時間的次元と,人物情報に対する好意度(快-不快)に注目して検討した。実験1では,エピソードの時間的次元に注目した。そこでは日本版ESCQ(Toyota,Morita,&Taksic,2007)によって情動知能の個人差を測定し,情動知能の高い群と低い群による違いを検討した。その結果,情動知能の高群でも,低群でも,記銘語から過去のエピソードを想起する場合には,そのエピソードが快もしくは不快の方が中立的な情動が喚起されるよりも再生率が高かった(快=不快>中立)。しかし,記銘語から未来のエピソードを想起する場合には,情動知能の高群では快=不快〉中立という関係が見いだされたが,情動知能の低群では,エピソードの情動性が快,不快,中立の間に再生率の違いはなかった。この結果は,情動知能の個人差がエピソードの情動処理に影響し,それが再生率に反映されたと考えられた。すなわち,情動知能の低群では未経験の未来のエピソードの情動を処理できず,未来のエピソードが有力な検索手がかりとならないことが示された。実験2では,記銘語から想起される人物に対する好意度に注目した。記銘語から想起される有名人の名前に対して,その適合性を評定させ,さらに,その人物に対する好意度(快-不快)評定を行わせるという方向づけ課題を実施した。その後,記銘語に対する偶発自由再生テストを行ったが,記銘語から想起される有名人が適合する場合には,情動性の効果があった。すなわち,想起した有名人を快と評定した場合が再生率が高かった。一方,記銘語から想起される有名人が適合しない場合には上記の情動性の効果はなかった。したがって,記憶に及ぼす人物情報に関する情動性の効果は,記銘語との適合性によって規定されることが示された。
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