2006 Fiscal Year Annual Research Report
米国公立学校教員人事・評価制度の法的原理と実際的態様に関する研究
Project/Area Number |
18530610
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
古賀 一博 広島大学, 大学院教育学研究科, 教授 (70170214)
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Keywords | 教員人事 / 教員評価 / 勤務評定 / 教育行政 / 米国 / 教育制度 / 指導力不足教員 / 優秀教員 |
Research Abstract |
本年度の研究活動としては、米国全州にわたる関連法令の渉猟と関係先行研究の検討を行った。そのため、研究課題に直結した顕著な研究成果を社会的に公表するには至らなかった。しかしながら、次ページに示すような概説的ではあるが、一定の著作を通して研究の一端を披瀝することはできた。その概要は、以下の通りである。 アメリカの公立学校の教員人事は、各州・各学区(school district)によって極めて多様であり、このことが同国における教員人事の大きな特徴ともなっている。この公立学校教員人事の多様性は、アメリカ公教育制度の根幹をなす地方統制(10cal control)原理を背景にして、それら教員人事に関する諸権限が各地方の学区教育委員会に付与されていることによるものである。 学区の教育委員会は、教員の採用・配置・研修・評価・給与・異動・昇任・解雇・退職といった人事管理全般にわたる諸権限を、所轄学校の校長との連携下、配下の事務局(教育長と関係専門職員)に執行させている。しかしながら、その運用の実態をみてみると、学区によって程度の差はあるものの、我が国の教員人事と比べ、各校長の影響力の強さが目を引く。とりわけ新任教員の採用人事においてはこの傾向が顕著であり、学区によっては校長の意見具申を学区事務局が拒否できないことを明示しているところすらある。一方、現職教員の異動(転任人事)に関しては、逆に教員の希望と年功(seniority)が最大配慮されて実施されており、その意味では校長の関与度は脆弱といえる。この背景には、学区との団体交渉を通して教員組合が獲得してきた「教員の勤務条件や地位をめぐる成果」が影響しているためであろう。 また、各学区の教育経費の多くが当該学区住民への直接課税によって徴収されるため、地方統制原理に根ざした公立学校教員人事は、常に住民が掌握しているとの意識が伝統的に根強い。したがって、保護者や地域住民の不満や訴えを反映した教員解雇の事例も少なくなく、教員の人事をめぐる住民の影響力も無視できない。シカゴの学校改革で創設された学校委員会(親・住民代表が過半数以上のメンバーを占める学校単位のミニ教育委員会)が校長の任免権すら有しているのは、まさに住民による直接統制の典型であろう。 このように、アメリカ公立学校の教員人事は、基本的に各学区レベルを単位とする教育委員会事務局による運営を基軸としながらも、所轄学校の校長、さらには教員団体や保護者・住民らの希望・意見を尊重した、分権的性質の強いものとなっている。
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