Research Abstract |
ロシア連邦では,2004年3月5日付で国家普通教育スタンダードが制定された。そこでは,連邦政府が2001年12月29日付で承認した政策文書「2010年までのロシア教育の現代化基本構想」を踏まえ,ロシア連邦における教育策の根本的な課題は,「教育の基礎・基本を保持する」ことであると同時に,「教育の質を現代化する」ことであるとされている。教育の質の現代化については,「学習者に一定の知識を習得させるだけでなく,学習者の人間性や認識的・創造的な能力の発達」を図ることが必要とされ,普通教育において身につけさせるべきコンピテンスとして,「普遍的な知識,技術及び経験を総体化」し,学習者が自己責任において自主的に活動できる能力が挙げられている。さらに,教育の構成要素に訓育が有機的に含まれるべきとの観点から,「市民としての責任と遵法意識,道徳性と倫理性,自主性,自律性,寛容性,社会的適応性,労働市場への積極的な適応性」の形成が必要とされている。しかし,2004年以降,学校現場に急激な変化が生じたわけではない。このことは,国家普通教育スタンダードが,あくまで連邦レベルの大綱的な基準であることに加え,少なくとも教育内容の範囲(scope)に関わる根本的な変更を連邦構成主体学校に迫るものではなかったためといえる。したがって,知識・技術及び活動方法を活用する能力の形成を図る取り組みは,授業実践に携わる教員や学校の教育課程に責任を有する校長に委ねられ,ロシア連邦全体に定着するにはなお時間を要する。その契機となりうるのが,2009年より義務化される計画となっている統一国家試験である。別な言い方をすれば,知識・技術及びその活動方法を活用する能力の形成の趣旨は,それを評価する基準が明確にされてはじめて教員の授業実践や学校の教育課程に反映されていくものと考えられる。
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