Research Abstract |
体内での感染症のダイナミクス研究の基礎および応用として,免疫の数理モデルの解析を行った.本年度は自己免疫疾患のダイナミクスを記述する二つのタイプのモデルについて解析を行った. ひとつは,B細胞(抗体を産出する白血球)とそのアンチ・イディオタイプB細胞の関係に着目したモデルである.ここでは,病原体への感染が自己免疫疾患を引き起こす場合を想定し,抗原の侵入が正常な状態から自己免疫を起こす現象を考察した.このモデルでは,自己に反応するB細胞を自己免疫疾患の原因ととらえ,それをアンチ・イディオタイプB細胞が抑制する.このタイプの数理モデルは,B細胞のほかに抗体を取り入れたものが,理論生物の立場から研究されているが,そのモデルは数学的に扱うには幾分煩雑であるので,我々はこれをシンプルにしたモデル(モデルと呼ばれている)を扱い,以下の性質を明らかにし,それをもとに考察を行った.新しいB細胞の供給が全くない場合には,モデルは保存量を持つ.この保存量を利用することにより,二つの平衡点が中立安定であり,これらの平衡点の近傍の軌道は閉軌道となる.すなわち,この場合モデルは構造不安定となり,このことはB細胞の生産の阻害が状態の遷移に関係することを示唆する.また,このモデルは自己抗体の量が0の時には対称性を持つが,自己抗体を正の定数とするとその対称性が崩れる.これにより,自己免疫反応が抑えられる状態から自己免疫が発症する状態への推移が,逆の推移よりも起こりやすくなることがわかる もうひとつは,破壊された自己の細胞が免疫系を刺激し,それにより正常な細胞が免疫系の攻撃を受ける,という現象を記述するモデルである.このモデルにおける相互作用の関係は,体内でのHIVのダイナミクスを記述するモデルと同一である.ここでは,HIVのモデルに関する結果を基礎として,自己免疫のダイナミクスを研究した.正常な細胞の増加が,(i)一定供給による場合,(ii)一定供給とロジスティック増殖の場合,のふたつの場合について,免疫反応の強さが,抗原の(a)1次関数の場合,(b)Holling type III関数の場合,のふたつの場合について,解析を行った.この解析結果は,自己免疫疾患の特徴である繰り返す再発に関しては,(ii)のロジスティック増殖が関与している可能性を示唆している.また,休止状態から発症するメカニズムに関しては,(b)のHolling type IIIの免疫反応が関与している可能性を示唆している.これらの結果は,微分方程式系の平衡点の安定性解析が基本となっている.例えば,再発に関してはHopf分岐と極限集合が関係している.また,休止状況から発症するメカニズムは,不安定な平衡点の安定集合の近くに沿って解が移動した後,安定な平衡点に収束することが関係している.
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