Research Abstract |
非可換幾何学の支配する唯一の観測可能な物理現象は量子ホール効果である.量子ホール系はランダウ準位に束縛された電子の作る世界であるが,この電子のx座標とy座標は交換しない,という著しい特徴を持つ.即ち,考察する系は,x座標とy座標の間には[x,y]=iθという非可換交換関係が成り立つ非可換平面である.θは長さの自乗の次元を持つ非可換パラメターである,この交換関係に伴う不確定性関係のため,電子の生成演算子は点電荷ではなく,面積2πθに広がった電荷を生成する. これに起因して,磁場中の自由電子系なのに,格子に束縛された電子間と同様な交換相互作用が働き,量子位相がダイナミカルな自由度として発生する.この量子位相が現実の系で観測により実証されるかは大きな問題である.本年は先ずこの問題の研究から開始した.具体的課題として,2層系での層間量子位相が抵抗にどのような影響を与えるかを解析した.量子ホール効果はホール抵抗が量子化したゼロでない値をとるという性質で特徴づけられるが,特殊な場合には層間量子位相効果によりゼロになることを示した.これは最近の米国で行われた実験事実をよく説明する.成果は2つの国際会議(ウィーン,イスタンブール)で発表し,1編の原著論文として発表した. 続いて,本研究の主題である非可換ソリトンのダイナミクス研究を開始した.2層量子ホール系で,横磁場が進入するとサインゴードン・ソリトンができる.一方,電流は電荷励起であるスカーム・ソリトンが運ぶ.長波長有効理論でのスカーム・ソリトンとサインゴードン・ソリトンの散乱過程を考察した。具体的成果として,その衝突効果を縦抵抗の測定によって観測し得ることを示した.これは私の属する実験グループで最近観測した縦抵抗の異常な振る舞いを説明する.成果の国際会議発表と論文発表は準備中である,(5月の米国での国際会議で発表予定.) これらの理論的研究と平行して,私の属する実験グループで実施した2層量子ホール系実験の解析も行い,成果は4編の原著論文として公表している,以上5編の原著論文は項目11の研究発表に記載したものである.
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