2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18540401
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
崎本 一博 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究本部・宇宙科学共通基礎研究系, 助手 (60170627)
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Keywords | 反陽子 / 反陽子ヘリウム原子 / 共鳴 / 電離 / 組み替え反応 / R行列法 / エキゾティックアトム / ボルンオッペンハイマー近似 |
Research Abstract |
今年度は反陽子とヘリウムイオンの衝突系について重点的に調べた。 高エネルギー衝突では、半古典論を用いて電離過程について計算を行った。その結果、電離断面積に極小値が存在し、電離しきい値近傍でも断面積は有意な値を取ることがわかった。これは、電子衝突や普通のイオン衝突による電離では見られない現象である。極小値を持つ原因は反陽子とヘリウムイオンの間に強い引力が働くためであるが、単純なクーロン引力だけでは定量的に説明することができない。反陽子とヘリウムイオン間の相互作用を正確に把握する必要がある。 低エネルギー衝突では、反陽子捕獲が興味ある反応過程となる。反陽子とヘリウムイオンは重粒子衝突系であるが、一般の原子衝突に見られるように断熱(ボルンオッペンハイマー分離)近似が良いのであれば、反陽子捕獲は起きないことになる。従って、断熱近似の悪い程度に応じて反陽子捕獲が可能になる。 反陽子捕獲を調べるために、まず、時間に依存した波束伝搬による量子力学的計算を行った。その結果、反陽子捕獲の確率は各部分波でたかだか0.1程度と小さいことがわかった。従って、総じて断熱近似は悪くはないということになる。断熱近似が使えることは反陽子と分子イオンの衝突を研究するときに非常に役に立つ。従来の化学反応の研究と同じように、断熱近似により得られるポテンシャル曲面が反陽子衝突を調べるときに有効になるからである。 反陽子とヘリウムイオン衝突の反陽子捕獲に対しては、他の研究者による古典論に基づいた計算がすでに行われていた。しかし、古典論では大きな捕獲確率が得られていた。この系では古典論は役に立たないことがわかった。 また、時間に依存した波束伝搬計算により、反陽子とヘリウムイオン衝突で共鳴現象が非常に重要であることがわかった。しかし、残念ながら、波束伝搬方法では共鳴で平均した捕獲確率しか求めることができなかった。そこで、共鳴構造を詳しく調べるために、新たにR行列法と直接数値解法を合わせた手法を開発し計算を行った。その結果、複雑な共鳴が無数に存在することが直接確認された。目下詳しい解析を行っている。また、この共鳴状態は、日本のASACUSAグループにより高分解能レーザー分光実験で観測されており、反陽子ヘリウム原子として知られている。本研究では衝突の立場からこの反陽子ヘリウム原子を調べることに成功したことになる。
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