Research Abstract |
これまでに筆者らが青森県・下北半島沖で実施してきた深海堆積物の古環境解析の結果から,少なくとも過去数万年間において当該海域は中深層循環の強度が千年〜数千年スケールで変化していたことが明らかになっている(e.g.,Ahagon et al.,2003).今年度は,このような中深層循環の変化に伴って当該海域の基礎生物生産力にどのような変化が生じていたかを明らかにするため,海底堆積物中に含まれる炭酸塩・生物源オパールの含有量変化を中心に解析を実施した.分析に使用した堆積物コアはMR04-06航海において筆者らが取得したPC3(採取地点:北緯41°3.14',東経142°41.16'.水深1725m)で,採取長は1182cmである.予察的に実施した有孔虫殻酸素同位体比や放射性炭素年代測定から,本コアは過去約3.5万年間の古環境記録を有していると考えられている.このコアから,炭酸塩については少なくとも10cm間隔(最小2cm間隔),生物源オパールについては10cm間隔で分析試料を採取し,分析に供した. 炭酸塩含有量に関しては,最大でも9wt%と全体的に低い値で推移しており,後氷期から退氷期に相当する層準で相対的に高い値を呈するものの,最終氷期に相当する層準ではスパイク状に炭酸塩が局在していることが認められた.一方,生物源オパール含有量に関しては,7〜25wt%で推移している.顕微鏡観察の結果から,生物源オパールのほとんどは珪藻由来と考えており,特に最終氷期極相期(LGM)に相当すると予想される層準において相対的に高い含有量を示すことから,LGMには当該海域の基礎生産力が大きかった可能性がある.また,オパール含有量はベーリング/アレレード(B/A)期に相当する層準において極大値を示しており,B/A期に北西太平洋において生物生産力が増加したとするCrusius et al.(2004)の結果と調和的であった.予察的解析では,これらの含有量変動には数千年程度の周期性が認められる.今後,放射性炭素年代や酸素同位体比の分析により年代査定が精密になれば,グリーンランド氷床コアとの比較も可能と考えられる. 一方,当該海域における過去の中層水水温を復元するため、表層堆積物中の底生有孔虫Uvigerina akitaensis(Asano)の骨格中のマグネシウム/カルシウム比を測定し,底層水温との関係式の構築を試みた。それによると,底層水温0〜5℃の間で,対数近似可能な関係式を得た。 この式を,下北沖より採取されたコアMR01-K03 PC4(北緯41度07分,東経142度27分,水深1,334m)に適応すると,最終氷期(LGM)の平均的な底層水温は3.4-3.7℃であり,Bolling-Allerod(BA)期には最大3.9℃にまで達していたことが明らかになった。今後さらにキャリブレーションの精度を上げることにより,後氷期の詳細な中層水の水温変動を明らかにすることができると考えている。
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