Research Abstract |
本年度は, 青森県下北半島沖で採取された海底堆積物コアMRO4-06PC-03について解析を行い, 親潮域における基礎生物生産量の変遷を高時間解像度で復元し, 過去の中深層水循環変動との関連を明らかにした. コアに含まれる生物源物質の指標として, 炭酸塩含有量, オパール含有量, 有機炭素含有量を測定し, また堆積環境の指標としてC/S比, C/N比を求め, 堆積時の海洋環境および基礎生物生産量(PP)を推定した. 有機炭素沈積量に基づいてPPを復元した結果, 本海域における過去3万年間のPPの変動範囲は100〜300gC/m^2/yrと見積もられ, 酸素同位体ステージ(MIS)3から最終氷期極相期(LGM)にかけては少なくとも現在と同等か, それよりも大きく, その後MIS1に向けて減少し, 15kaには現在と同程度になったことが示唆された. 昨年度までに実施済みの底生有孔虫の群集解析結果や放射性炭素年代とあわせて本海域における古海洋環境を推測すると以下のように考えられる. 最終氷期(20.5〜32ka)は生物生産が盛んであり, 一方で海底は比較的溶存酸素量に富んでいた. しかしながら, 断続的に低酸素イベントが発生した可能性が底生有孔虫群集から示唆された. その後の過渡期(16. 5〜20. 5ka)を経て, 退氷期(10〜16.5ka)は, 新ドリアス期に相当する層準を除いて底生有孔虫群集が本海域の現生群集と対比できること, 生物生産量がほぼ現在の値と等しいことから, 現在の海洋環境が形成され始めたと考えられる. 本研究により取得された過去3万年間の古生物生産量の変動および底生有孔虫群集組成の変化は、本海域において筆者らが放射性炭素法によって推定した中深層循環変動のタイミングと良く一致し、表層環境の変化と中層水循環強度との問に強いリンクがあることが示唆された.
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