2006 Fiscal Year Annual Research Report
半導体超格子における電界ドメインの非線形ダイナミクスの研究
Project/Area Number |
18560013
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
細田 誠 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (80326248)
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Keywords | 多重有限長超格子 / 半導体超格子 / 電界ドメイン / 非線形ダイナミクス |
Research Abstract |
初年度は有限長超格子が多層構造となった多重有限長超格子について、そのドメイン形成の非線形ダイナミクスに関する研究を行った。多重有限長超格子構造における電界ドメインの発生に関しては、これまでまったく報告が無かったが、筆者は電界ドメインが発生することを発見した。以下に、その意義を述べる。一般的な半導体超格子においては超格子部の全てが等しく同じ幅を持った量子井戸と、等しく別の同じ幅を持ったバリア層からできているその場合の電界ドメインの発生原因は。バリア層をトンネルして干渉した電子波動関数のサブバンド間共鳴によることが知られている。この場合、その電流-電圧特性に共鳴によるピークが観測され、それによって負性微分抵抗領域が電流-電圧特性上に出現する。この非線形性によって一般的な超格子では電界ドメインの発生に至る。それに対し、今回実験に使用した多重有限長超格子においては電流-電圧特性に負性微分抵抗領域を持たない。それにも関わらず、素子は電界ドメインを発生するというこれまで観測されていない現象を発現した。 上記の多重有限長超格子の電界ドメイン発生に関し、まず実験的には電流-電圧特性の他に光励起蛍光(PL)のスペクトルを各電圧に渡って詳細に観測した。その結果より、電界ドメイン発生時には有限長超格子部分の電界が空間電荷遮蔽によってスクリーニングされており、外部から与えられたバイアス電圧による電界のほとんどが有限長超格子のセットを挟み込んで分離している厚いバリア部にかかっていることが確認された。これらの結果より、多重有限長超格子における電界ドメイン発生時における内部電界の分布が予想され、実験結果を矛盾無く説明できた。 次に、計算によってその予想を裏付けるために、多重有限長超格子における非線形ダイナミクスのシミュレーションを行った。多重有限長超格子内部には多数の異なる幅を持ったバリア層が存在しており、それらバリアに対するFowler-Noldheimトンネリング速度をWKB法を用いて計算し、シミュレーションに使用した。WKB法の計算より、トンネリング速度の電界依存性は強い非線形性を持つことが示された。ドメイン生成のシミュレーションはそれらの値、および実際の実験における励起光強度などのパラメーターと同等のものを使用し、0.1ピコ秒という非常に短時間ごとの計算ステップを500万回ほど繰り返して定常状態に達した。これら計算結果より、実験から予測されたモデルが正しいことが確認された。加えて、ドメイン境界の移動やドメイン生成過程のダイナミクスも得ることができた。 以上の結果は2006年秋の応用物理学会で発表した他に、現在、米国物理学会刊行のPhys.Rev.B誌に投稿中である。その他、ドメインの発生に影響する高位エネルギー準位に関する研究も行い、数編の論文を投稿した。
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Research Products
(3 results)