Research Abstract |
線形方程式を高速に解くためにKrylov空間法が有効である.Krylov空間法は導出のプロセスの違いによっていくつかに分類される. その中に,残差最小化アプローチと呼ばれる,Krylov部分空間上で残差を最小化することによって導かれる一般化共役残差法(GCR法)やその切断版であるOrthomin(m)法などがある.また,短い漸化式によって残差,近似解が更新される共役残差法(CR法)も残差最小化アプローチに属する解法の一つとして知られている.さらに,近年,CR法と数学的に同値でアルゴリズムの表現が異なるMinimized Residual Method Based on the Three-Term Recurrence Formula of CG-Type(CG型の三項漸化式に基づく最小残差法,MRTR法)が提案され,その有効性が報告されている.しかし,Orthomin(m)法と数学的に同値でアルゴリズムの表現が異なる解法はまだ提案されていない.そこで,従来のOrthomin(m)法と数学的に同値で,アルゴリズムの表現が異なる新たなアルゴリズムを開発した.そして,正則な係数行列に対する数値実験を通して,提案するアルゴリズムと従来のOrthomin(m)法の収束振舞いが一致することを確認した.また,係数行列が特異な場合,従来のOrthomin(m)法の残差が理論と矛盾する収束振舞いであるのに対し,提案するアルゴリズムの残差は理論通りに収束することを示した. 複素対称行列を係数行列として持つ線形方程式を解く場合,係数行列が正則であれば,その代表的な解法としてCOCG (Conjugate Orthogonal Conjugate Gradient)法が知られている.また,近年では,複素対称行列のためCR法としてCOCR法も提案されており,COCG法よりも滑らかな収束性が得られることが報告されている.しかし,特異な複素対称行列を係数行列として持つ線形方程式を解く場合,COCG法やCOCR法を適用するとき,COCG法の残差ノルムは振動して収束しないこと,またCOCR法の残差ノルムは一旦収束するものの最小残差ノルムより減少して最小二乗解を求めることができないことが推測される.それゆえに,複素対称行列のためのMRTR法のアルゴリズムが導出されれば,特異な複素対称行列に対してCOCG法やCOCR法よりも有効であると考えられる.そこで,複素対称行列を係数行列として持つ線形方程式を解く解法として,複素対称線形方程式用のMRTR法を新しく提案した.そして,室内音響や電磁界解析の応用問題から得られる正則または特異な複素対称行列を係数にもつ線形方程式にCOCG法,COCR法,提案するアルゴリズムを適用し,提案する解法の有効性を示した. さらに,現在,双共役勾配法(Bi-Conjugate gradient, BiCG法)に基づく従来の積型反復解法の高速化を目指し,非対称行列用CR法に基づく積型反復解法を開発中である.
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