Research Abstract |
本研究は小河川や農業用水路網における魚類生息場保全に向けて,環境改善の効果を事前に検討するために魚群行動予測モデルの構築とそれらの水路網における個体群の「ネットワーク=遺伝的交流」の実態について,分子生物学的手法の一つであるマイクロサテライトDNAによって解明することを目的とする.平成18年度は,室内実験による水理環境と魚類の遊泳力,魚群行動の関係の把握,ドジョウ個体群間の遺伝的交流の実態解明に重点を置いた研究を実施した. (1)水理実験および現地調査による魚類の遊泳ポテンシャルと魚群行動の把握: 平成18年度は,対象魚について環境要因(水温,流速,水深),成長段階,種類数,単独と複数個体(魚群行動)などの差異を考慮した遊泳曲線を作成して,在来魚類の遊泳ポテンシャルや魚群行動を定量的に把握した.さらに,室内実験における魚群行動のビデオ観察データ,流速分布,乱れ強度などから,魚群行動の複雑さを3次元の移動座標データをフラクタル次元解析し,魚サイズの空間スケールの選択性について,定量的に評価する方法を提案し,複数の魚類を用いた事例を提示した. (2)個体群間ネットワークの遺伝的交流の実態解明: 平成18年度は,河川・農村環境の魚類保全に向けて,落差等により河川から分断化されている支川および農業用水路のネットワークを対象に,一部のマイクロサテライトDNAが解読されている在来魚類(ドジョウ類)の遺伝的特性を検討した.予備的な調査事例として,長良川・根尾川流域の落差などにより分断されている小河川や農業用水路網において,各水域におけるドジョウ個体群の多型を推定し,その空間分布と類型,ヘテロ接合度による遺伝的多様性について考察した.サンプル数はごく少数であるが,開発されたプライマーを利用して本対象領域においても各水域の多型を推定することができること,遺伝的な多様性の評価に結びつけることが確認された.
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