2007 Fiscal Year Annual Research Report
ハエの記憶と学習による採餌と繁殖の適応戦略:探索軌跡とカオス的遍歴
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18570012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
嶋田 正和 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (40178950)
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Keywords | 歩行軌跡 / Levy fiight / キイロショウジョウバエ / 時系列解析 / 局所定常ARモデル / べき乗分布 / 指数分布 / 最適採餌理論 |
Research Abstract |
最適採餌理論は、採餌行動を「生存価・適応的意義」という観点から眺め、適応度を最大化する行動が進化してきたはずだという考えのもとで最適化理論により動物の行動を説明してきた。しかしながら、最適採餌理論は生物が今現在の利益や将来の利益のすべてを見通したうえで完全に合理的に振る舞うという現実的にはあり得ない最適化の解法を適用している。生物の持つ記憶や学習能力といった現実の動物に課せられる制約を考慮した上で理論を再構築する必要性が指摘されている。 本研究では、動物の餌探索の歩行軌跡には記憶・学習を用いた意志決定の効果が現れることに注目し、キイロショウジョウバエで実験を行った。餌探索軌跡全体がどのようなパターンになっているかを解析することで、その軌跡によりもたらされる採餌効率、すなわち餌探索における究極要因(適応度)が明らかとなると期待される。まず、一区切りの歩行がLevy flightと呼ばれる「べき乗分布」と、ランダム歩行の「指数分布」の、混合モデルに適合すること、そして歩行には直進方向に対する偏向性を持つことを見出した。これは、餌獲得効率を高めるためのLevy flight的な歩行(まれに超長距離の歩行を示すのが特徴)を促す自然選択圧と、実際の生物に課せられた身体的制約の、両方が混合された行動として理解できる。さらに、局所定常AR(自己回帰)モデルによる時系列解析により、移動速度はある時間幅では同じARモデル(行動ルール)で歩行するが、転換角度には定常な行動ルールは見られず、移動速度への自然選択が示唆された。このように、本研究では物理学的・統計学的手法を駆使して動物の行動の背景にある意思決定過程を解析したもので、従来の行動生態学の範囲を超えて斬新な成果を提示している。
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