2006 Fiscal Year Annual Research Report
日本産ナミテントウにおける鞘翅斑紋遺伝子の地理的勾配に対する地球温暖化の影響
Project/Area Number |
18570028
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
野村 哲郎 京都産業大学, 工学部, 教授 (50189437)
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Keywords | ナミテントウ / 鞘翅斑紋遺伝子 / 地理的勾配 / 自然選択 / 温暖化 / 小進化 |
Research Abstract |
自然選択による進化説は、生物の適応的進化に対する今日の説明において中心的な役割を果たしている。しかし、野外での自然選択の実例は、膨大な数の人為選択の実例と成果に比べてきわめて少数である。本研究では、ナミテントウ(Harmonia axyridis)における鞘翅斑紋遺伝子の頻度に見られる地理的勾配とその年代変化ならびに遺伝子頻度と季節の気温との関連性について検討を加え、遺伝子頻度に地理的勾配と年代変化を生じさせる自然選択の機構について推論した。その結果、本州以南の多くの産地においては、地理的勾配は依然として維持されているものの、過去半世紀以上の間に二紋型および四紋型遺伝子が増加し、斑型および紅型遺伝子が減少する傾向が見られた。数値計算の結果などから、このような変化は、緩やかな自然選択の結果であると考えられた。さらに、本州以南の産地では、緯度が低くなるにしたがって紅型遺伝子に対する淘汰係数の大きさが小さくなる傾向が認められ、斑紋遺伝子に対する自然選択が高緯度地方でより強く働いたことが示唆された。各産地の月別平均気温と遺伝子頻度に対する統計解析の結果から、各産地での班紋割合を決める要因として繁殖季節の温度が重要であり、斑紋型間の適応度の違いによって生じる自然選択は、生存性選択ではなく繁殖性選択であると推察された。 今回の結果は、気候の温暖化が生物種内の遺伝子構成に影響を与えていることを示唆するものであり、自然選択による小進化の野外での実例の1つと考えられ、進化・生態学のみならず広範な研究分野にインパクトを与える可能性を秘めたものと考えられる。最終年度は、北海道と九州の標本数の充実をはかるとともに、研究成果の海外専門誌への投稿を予定している。
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