Research Abstract |
ムチンは腸上皮細胞を覆う不拡散水層の主要構成物であるため,1980年当時から今日まで,この分泌促進は栄養素吸収速度の制御に役立つと考えられてきた。これを説明する現象として,「DFを長期にわたり摂取し続けたとき,絶食後の耐糖能が改善される」事実が知られている。この作用機序には,「小腸内ムチン分泌量の増大による不拡散水層の肥厚化」が関与すると信じられてきた。申請者は,次にこの仮説の証明に取り組み,長期間,維持可能な門脈カテーテル留置ラットの術式を完成し,上述のPSFを含む飼料を小腸内ムチン分泌が最高に達する5日以上,実際には14日間摂取させ,12時間の絶食後,無麻酔、無拘束下でグルコースおよび卵白アルブミン(OVA)を強制的に胃内投与し,5-120分間に渡り門脈血中グルコースおよびOVA濃度を追跡した。OVAの一部は未消化で吸収されるが,その分子量は45,000でグルコースの250倍であることから,ムチン分泌促進による不拡散水層の肥厚化は,グルコース以上にOVAの吸収速度を強力に抑制すると予測される。しかし実際には,OVAの吸収ピーク自体(45分)はグルコース(10分)にくらべ遅れるものの,対照飼料とPSF飼料を摂取したラット間ではOVAですら吸収速度に全く差がないことが判明した。これらの知見は,従来の仮説を完全に否定するもので,DFの長期摂取は耐糖能を改善するが,この現象は小腸内ムチン分泌量の増大によるものではないことが明らかにされた。
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