Research Abstract |
平成18年度では,まず,中国およびインドのシルク産業の変動を概観し,主に既存の統計資料とUNCOMTRADEの貿易データを用いて,近年における絹糸類と絹織物貿易パターンの変化を明らかにした.中国では,シルク産業管理体制の改革に着手し,市場経済化とともに,「東桑西移」といわれる産地移動が見られる.輸出構造は生糸から付加価値の高い絹織物へとシフトしつつある.一方,インドでは,中国からの安い生糸の大量輸入によって国産生糸の価格破壊が生じ,繭・生糸生産量は1992年以降停滞している.また,近年では絹紡糸・絹織物輸入の比重が高まっており,これに対してアンチ・ダンピング関税を課している.このように,中国のWTO加盟,ATCの終了によってシルク貿易の自由化が進行し,中国の輸出シェアの拡大は,インドを始めとする途上国にも多大な影響を及ぼしていることが明らかとなった. 次に,中国の旧主産地である浙江省と新産地の広西自治区で,ヒヤリング調査を行った.現在中国では,農家からの生繭の買上は省政府による許可制,乾繭の売買は自由化されている.浙江省では,県・市毎に原則として1つの会社に生繭買上を許可しており,製糸工場以下の川下産業では株式会社化と同時に民営化が進んでおり,一部ではインテグレーションも見られる.しかし,沿岸部では経済発展により,農業縮小が進み,繭生産は減少し,原料繭の5割以上を他省より購入している.:方,広西自治区では,急激に繭生産量が増大し,2005年には中国で最大の繭生産地となった.温暖な気候条件下で,繭の生産性は非常に高く,また,全国的な繭不足を背景に,製糸工場等のシルク会社が進出し,生繭買上もほとんど自由化されているので,競争市場が成立している.さらに,繭・生糸取引市場では投機目的の売買によって,近年繭・生糸の価格が高騰しており,これらが養蚕農家の繭生産のインセンティブを高め,収益性の低い作物からの転作を促進させたと考えられる.
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