Research Abstract |
様々な糖鎖抗原が,特異性の高い腫瘍診断マーカーとして,癌スクリーニング,診断,治療経過のモニタリング,及び再発の予知に用いられている.しかし,糖鎖抗原を利用したマーカーの中には,抗原の本体,分子構造,コアタンパク質,及び体内での役割等が明らかになっていないものが多い.その中で,構造特性や機能に関する研究が進んでいる糖鎖抗原の一つにシアリルルイスX(NeuAca2-3GaIβ1-4(Fcuα1-3)GlcNAc)がある.シアリルルイスxは,細胞接着分子セレクチンのリガンドで,細胞の癌化に伴い増加し,癌細胞の血行性転移に係わっていることが知られているが,その糖鎖抗原が付加しているタンパク質の多くは不明である.癌化に伴ってシアリルルイスxが付加されるタンパク質,あるいは発現量が増加するタンパク質を特定することができれば,癌転移機構の解明や,特異性の高い診断マーカーや治療法の開発につながることが期待される.本研究では,グライコミクスの技術を用いて,様々な癌細胞株が発現・分泌するシアリルルイスx付加タンパク質の同定と糖鎖構造解析を行うものである. 本年度は,まず,文献調査により,シアリルルイスx付加タンパク質の発現が報告されているヒト培養細胞を選び出した.その中のBxPC-3(譚臓癌),Capan-1(膵臓癌),HT29(大腸癌),HepG2(肝臓癌),ZR-75-30(乳癌),及びNCI-H345(肺癌)等の細胞について,ウエスタンブロッティングによりシアリルルイスxの存在を調べたところ,ある細胞に複数のシアリルルイスx付加タンパク質が発現していることが明らかになった.このタンパク質は膜タンパク質で,WGAレクチンカラムで濃縮することができた.現在,2次元電気泳動を用いてシアリルルイスx付加タンパク質の分離を試みているところである.来年度以降は,このタンパク質を電気泳動ゲルから回収し,LC/MS/MSを用いてタンパク質同定と糖鎖構造を行う予定である.
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