2006 Fiscal Year Annual Research Report
転写因子Oct-4のリン酸化と胚性幹細胞の性質維持との関連
Project/Area Number |
18590275
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
西本 正純 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (00265406)
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Keywords | 胚性幹細胞 / 多能性 / Oct-4 / リン酸化 |
Research Abstract |
平成18年度の計画の中心は、Oct-4が胚性幹細胞の性質維持に重要であると同定したスレオニン残基について、レスキュー実験を利用することで、さらに検討を加えた。レスキュー実験とは、神戸発生生物研究所の丹羽仁史先生により開発された実験系であり、テトラサイクリンによりOct-4の発現が制御可能な胚性幹細胞を利用する。即ち、テトラサイクリンを添加し細胞内のOct-4の発現を止め、変わりにOct-4あるいはその変異体を細胞に導入し、これを持続的に発現させることで、胚性幹細胞の多能性が維持可能か否かを調べる実験系として開発された。そこで今回の実験計画では、この系を利用し、野性型Oct-4の変わりに、スレオニン残基がリジン残基、あるいはグルタミン酸残基、あるいはバリン残基に変異させたOct-4を導入し、胚性幹細胞の性質にどのような影響が出るかを調べることとした。ここで3種のアミノ酸残基に変異させた理由は、すでに報告された結晶解析の結果を利用し、コンピューター上で主ミレーションを行なった所、このスレオニン残基は、Sox-2と複合体を形成し、UTF1遺伝子のエンハンサー上に結合する時、Sox-2のリジン残基と極めて近接することが予測されたことによる。即ち、ここでの実験系では、Oct-4のスレオンン残基がリン酸化されることで、負に帯電し、結果的にSox-2の正に帯電したリジン残基と、静電気的相互作用により、安定した複合体を取ることが出来るのではないかと予想したことによる。そこで、このスレオニン残基を正に帯電したリジン残基、あるいは負に帯電したグルタミン酸残基、中性であるバリン残基に変異させることで、どのような影響が現れるかを調べることとした。その結果、予想通りリジン残基では、胚性幹細胞の性質維持そのものが出来なくなってしまった。一方バリン残基では、スレオニン残基に比べ胚性幹細胞の性質維持の効率は極めて悪かった。しかし一方グルタミン酸残基に変異させた場合、驚いたことにスレオニン残基の場合に比べ、胚性幹細胞の性質維持の効率は上昇した。以上の結果より、胚性幹細胞の性質を維持する上で重要性が示唆されていたOct-4のスレオニン残基は、実際負に帯電させることでより効率よく胚性幹細胞の性質維持がなされ、このことよりスレオニン残基のリン酸化の可能性が強く示唆されたものと考えている。
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