Research Abstract |
本研究課題では,膵管癌の分子診断法の確立を目指して,膵管癌の前駆病変として有力視されるようになってきた膵上皮内腫瘍性病変(pancreatic intraepithelial neoplasia, PanINs)、腺房細胞の膵管上皮化生(acinar-to-ductal metaplasia),膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm, IPMN)について,膵管癌との関連を明らかにすることを目的として解析を行っている。 昨年度は、IPMNと膵管癌において,その周囲間質におけるペリオスチンの発現と分布を見た。ペリオスチンは,膵星細胞での高発現が確認された分泌タンパクで,膵の線維化および腫瘍の発育進展に関与していると考えられている。まず,in situハイブリダイゼーション法により膵管癌の腫瘍間質の紡錘状細胞にペリオスチンの発現を確認した。この発現は,腫瘍から離れた間質では認められないか,非常に弱かった。免疫組織化学でも,全ての膵管癌(n=35)の腫瘍間質に陽性像を見た。IPMNでは,上皮異型度が上昇するに従い腫瘍部膵管周囲に高頻度に陽性像が見られた(p=0.014)。そして,このペリオスチン陽性頻度は,腸型亜型(p=0.036),laminin-5γ2鎖発現と高い相関を示す(p<0.001)ことを見出した。以上,ペリオスチンは浸潤癌の間質のみならず非浸潤癌のIPMNでもその周囲に分布が観察されたことから,このような早期病変の段階でも腫瘍周囲の環境変化が始まっている可能性が示唆された。この環境変化は膵管系腫瘍の発育進展に関与している可能性がある。現在は,膵癌の前駆病変およびその周囲環境の変化に関わるその他の因子についてさらに解析を進めている。
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